天使の鱗片と決意5
男が持っていたのは銃。銃口が此方に向いている。反射的に身を竦める。
「ごめ……なさっ」
「別に謝って欲しいわけじゃねぇんだよ?」
レティの声を聞き、男が呆れたような笑いを浮かべた。
「殺しゃしねぇから、安心しな」
銃口が天に反れ、パンという音ともに放たれた。
まだ明るい空に太陽とは違う閃光が、花火のように散る。
(これは……仲間を呼ぶ合図!)
閃光の意味が分かり、背中が冷えた。
(助けなんか待ってたってしょうがない)
レティは男と視線を合わせた。
「ん?」
今までと違う目付きに変わった少女を見て、男が妙な顔をする。
(覚悟を……)
ジョアンは街で店の修理や買い出しに忙しいはずだ。リックなんか何処にいるのかすら分からない。
(自分の身は、自分で何とかしなきゃ)
横目でチラリと海を見た。広がるのは穏やかな波。
ギュッと目を閉じて、唇を噛み締めた。
「あなた達に捕まるくらいなら、飛び降りるのなんて怖くないわ!」
逃げ場が無いことにたかをくくり、レティを掴む男の力は弱かった。
レティはその拘束を振り切って、有らん限りの力で男の胸を押した。
「な……っ!」
代わりに細い体が弓形に反り、岬を離れた。男が慌てて手を伸ばす。
(海は怖くない。ここにはそう、……お父さんとお母さんもいるんだから!!)
重力に素直に従い、体が水面を目指して落下する。
自分の体が風を切るヒュウッという音に紛れ、レティの名を呼ぶリックの声を聞いた気がした。




