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切ない想いの罪6

その妊婦は旦那を事故で亡くしており、何とか二人を助けたいと言う思いで、心優しい弟がサラの所に相談しに来た。


「叡智と呼ばれる貴女なら、何か知っているんじゃないですか!?どうして手を貸して頂けないんですか?」

「危険なものだから、教えることはできません」


サラは丁重に断ったが、弟は引かなかった。

藁にもすがる思いだった彼は、地面に手と膝と頭をつけて、何時間もサラの家の前に居続けた。

やがて日は落ち雨が降っても彼は離れずに、心を痛めたサラは傘を片手に彼の元へ歩いた。


「寒いでしょう?うちへどうぞ」

「サラ様!」


彼が顔を上げ、サラを希望の目で見上げた。


「ごめんなさい。貴方の望みを叶えることはできないわ。お医者様でも手が出せないような命を助けるには、それほどのリスクがあるの。貴方を守るためです。どうか分かってください」


立ち上がるのに手を貸そうと差しのべたら、彼は濡れた手で腕をつかんできた。その手のなんと冷え切ったことか。


「姉さんは充分悲しんだ。もうこれ以上不幸になることもない。僕はどうなっても構わない。覚悟はあります。ただ、義兄(あに)の遺した姉さんと子どもを助けたいんです。どうか!どうかどうか、お願いしますっっ」


雨に濡れて分からなかったが、声が震えていたので泣いているのだと分かった。


「その方法を使ったら、サラ様にも良くないことが起こりますか?それならば――」

「そうではないの……」


目を閉じ、青年の肩に手を置いた。


「貴方が代わりに死ぬかもしれないの。結果が出てそれならまだ報われます。けれど、結果の出ないまま命を落とす可能性が」

「構いません!やらないで後から後悔するよりは……」

「……っ。分かりました」


青年の燃え尽きることのない熱意に負け、迷いに迷ってサラは折れた。


「説明だけでもします」


弟を家へ招き入れ、彼の求める方法を教えた。少し躊躇う様子が見られたものの、決意を揺るがすまでの効力はなかった。

サラは青年にあるものを手渡した。そして――。

長い夜が明けた翌日、サラの家の前に、前日にはなかった絡み合う大きな蔓が現れた。

その蔓に若い弟が巻き込まれ、肌も植物色に染まって一体化している。


「……」


唇を噛んでサラは地面を見つめた。謝っても許されることではない。彼はもう二度と帰らないのだから。

魔女の家で起こったことはすぐに知れ渡り、病に伏せていた姉が体を引きずって来た。

両手を自分の頬に当てて無惨な姿の弟の名を叫び、彼女はその場に倒れてしまった。

病と大きすぎるショックが重なり、姉はお腹の子を流してしまった。数日後、その姉もこの世を旅立って家族を追いかけて行った。






膝をついて姉弟の墓の前に白いユリの花を添え、その傍らに立つ同じ魔女を生業としているポーラが言った。


「サラ。彼は、願いを聞いてくれた貴女を恨んでなんかない。これは悪い夢なのよ。覚めればきっと安心するわ。私が何とかするから」

「本当に夢ならいいのに……」

「夢よ。夢なの」


腰まである深い紫暗(しあん)の真っ直ぐな髪を風に揺らし、空を見上げてポーラは言った。

サラは下を向いていて気がつかなかった。

もし、ポーラの姿をきちんと見ていたら、彼女の漆黒の瞳に何らかの強い決意が宿っていることに気がついただろう。

更に事件が起こったのはその夜だった。




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