切ない想いの罪5
「滅多なことは言うもんじゃねぇ。こいつの未来を、こいつ以外の他人が決めるんじゃねぇよ。先のことはレティが自分で決めていくんだ。今向き合うべきは、今流れる時間に起こる問題だ。レティは今、助けたい奴がいてその為に動いてる。お前はその力になれるのかなれないのか、俺達が求めるのはそれだけだ」
青い瞳が伏せられ、そしてゆっくりと開いた。
「そうですね……。大まかなことは、この子の意志のオーラからわかります。ですが、事情をお伺いしましょう」
「彼女――レティアーナのいる船に死傀儡が入り込み、彼女を助けるために愛する人が代わりにウイルスに侵された。端的に話せばそう言うことです」
窓に寄りかかったセリオが説明をした。
「まだ死傀儡にはなっていないから、その前に助けたいということですね……」
「そうです」
「……ん」
小さな声がして、レティの手がピクリと動く。うっすらと藍色の瞳が姿を見せ、そして側に座る魔女の存在に気づいた。
「レティアーナ!大丈夫ですか?」
セリオが側に来て声をかけるが返事はなく、代わりにサラの着ていた深緑のワンピースが引っ張られる。
「魔女様……。お願いします。リック様を助けてください。お金もそんなに無いけれど、できることは何でもします。失いたくない人なんです……」
「方法はないわけじゃない……」
「!」
サラの呟くような小さな言葉。レティは目を見開く。
「万能薬となる花があるの。その実を口にすれば、どんな病も体の内側から浄化されるというもの。ただ……」
レティは起き上がった。サラが見ているのは、相変わらず窓の外だった。
「前回それを求めた人は失敗したわ。そして悲劇を生んだ。万能薬なんて都合のいいもの、そんなに簡単に手に入るわけがない」
「何があったんですか?」
セリオが問う。サラは目を閉じた。震える手を握り合わせ、膝に置く。
「助けたいと言う切なる想いが、この島の暮らしを破壊してしまったの」
サラが俯いたせいで、白い髪が肩からパラパラと滑る。
「辛いことなら、無理にお話しされなくて大丈夫ですよ……」
レティは気の毒に思って言う。サラはレティと目を合わせて少し微笑み、頭を振った。
「いいえ。あなた達にはきちんとお話ししなくてはね。その上で選択してほしい……」
サラは当時を思い出しながら話し始めた。
「――あれは、三年程前の冬が終わろうとしている頃だった。それまでは、小さくても活気に溢れる土地だったわ」
人が行き交い、挨拶や話を交わし、朗らかな雰囲気の絶えない時間がいつもあった。
「そしてこの島にはもう一人、私の他に魔女がいた」
追放も迫害もなく、普通に暮らす人も魔女も分け隔てなく過ごせるこの雰囲気が、サラもお気に入りだった。
サラは森の中で、生活に足る最低限のものを得て暮らしていたから村にはあまり姿は見せなかったけど、たまに出てくれば皆快く挨拶をしてくれた。
その頃村には一人の妊婦がおり、もう少しで臨月を迎えると言うときに事件は起こった。
外から島に来た商船が持ち込んだのか、村で流行しつつあった流行り病にかかってしまったのだ。
妊婦で薬を投与することもできず、あっという間に病状は悪化して母子ともに危険な状態になった。




