切ない想いの罪4
森の中を進み、小さな一軒家に辿り着いた。
レティを魔女のベッドに寝かせ、ユリウスとセリオはテーブルに座る。
魔女はコーヒーを二人の前に出し、自らは窓辺に立った。
「ここへ来た大体の検討はついています」
そういう魔女の瞳に、外をうろつく死傀儡が一人映る。異形な存在は家にある程度近づくと、仕掛けられていた魔法が反応し、青い炎に体を焼かれた。
「それにしても厄介な人を連れて来ましたね」
「厄介?」
ユリウスは聞き返し、魔女が頷く。
「セリオのことか?」
「彼もまあ、そうですが……」
セリオをちらりと見たきり、目を合わせようとしない。
嫌そうな表情から見ても、どうやら魔女がセリオに対して好意的で無いのは明らかだった。
そんな対象のセリオは、頬杖をついて微笑む。
「ああ。十年前のあの日、貴女のお陰で僕が初めて人間の成長した姿になれた時の事ですか。僕を見て卒倒したこと、気にしてるんですか?」
魔女の頬がかあっと熱を持ち、耳まで赤くなる。
セリオは椅子をずらして立ち上がり、窓辺の魔女の元へ行った。
「貴女には感謝してますよ。混血と言う宿命のせいで、いじめられっ子だった僕から抜け出せたのですから」
窓にセリオが両手をつき、気づいた魔女が肩を揺らす。
「この顔が美しすぎて、卒倒したんでしたっけ?」
「ひぃっ!」
恐る恐る振り返れば妖艶に見とれる大人びた顔が側にあり、青い瞳がきゅっと縮む。
魔女は冷や汗をだらだらと流した。
「そんな僕のお願い、今回も聞いてもらえますよね?じゃないと、美男子が苦手な貴女が頷くまで、ここに居座りますよ」
見守っていたユリウスが白い目で突っ込む。
「たぶらかしか。」
「嫌だな。人聞きの悪いことを言わないで下さいよ、マスター。相手は女性ですから、丁重にお願いしているんです」
「どこがだ。」
「まあ、何でも良いじゃないですか」
セリオはユリウスに言った。
「死傀儡のウイルスに侵された人を助ける方法が、魔女なら分かるかもと言う確証もない情報を頼りに、ここまで来たんです。力のない女の子が一人ね。糸口があるなら手ぶらでは帰れないでしょ。サラ」
「力のない女の子?」
サラと言う名らしい魔女は、セリオの腕の下を潜り、ベッドへ歩く。
「とんでもない。貴方達はこの子のことを何も分かっていないわ」
「どう言うことだ?」
「知らぬなら知らぬままの方がいい。それほどの存在……」
ユリウスの問いを曖昧に濁し、サラはベッドの端に腰を降ろした。
レティを見つめ、指先でアプリコットブラウンの髪を撫でる。
「今はまだ、彼女本人すら知らないのね」
白い髪の合間に見えるサラの顔は、哀れみに溢れていた。
「この子はいずれ、世界の運命を揺るがすわ。そしてその時、産まれてきた自身の存在を忌むほどに」
ユリウスは一瞬にして表情を険しくした。




