切ない想いの罪3
狼が先頭を切って駆け出した。死傀儡に飛びかかって押さえつけ、氷の息を吐いて固める。
その横をユリウスとセリオが駆け抜けた。
続いて土傀儡がゆっくりとした足取りで追いかけてくる。
「げげっ!」
森に入るなり、ユリウスが足を止めた。セリオも止まる。
「うぅう……」
「おぉ」
四方からおぞましい声が聞こえ、木々の間から何人もの死傀儡が出てくる。
「何でここにはこんなたくさんの死傀儡がいるんだよ!?魔女の仕業か?」
「まさか……」
敵はじわじわと此方に詰め寄ってくる。
「土傀儡!レティアーナを!!」
セリオが上を向き、土傀儡が手を差し出した。セリオはそこにレティを座らせる。
「セリオくん!?」
「レティアーナは離れててください」
「ユリウス様!セリオくん!」
手を伸ばしたが間に合わず、レティは高い位置に連れていかれた。
(また私だけが守られる……。そんなの)
レティは身を乗り出した。下では雪狼、土の腕のセリオ、大剣を振るうユリウスが戦っている。
時折、土傀儡が片手で死傀儡を払いのける。
(私も力になりたい)
想いに呼応して金の光が溢れ出た。思い出す。
リックとアルが、二人の強豪を相手に苦戦を強いられた時。操られたユーシュテが仲間を襲った時。船室の中から邪眼を見ていた時。
(もう、手の届かない位置で、誰かが傷つくのをただ見ているのは嫌なの……)
金の翼が背中に現れ、土傀儡に流れる。大きな体を辿った光は地面を流れ、雪狼を通る。
まばゆい光に怯み、死傀儡達の動きが止まった。
「この光、レティアーナ!?」
セリオとユリウスが上を見上げる。太陽とは全く別の金色の光が、土傀儡の手の上にあった。
土傀儡と雪狼は形を失う。雪の風になった狼はユリウスの剣に宿り、氷の大剣に姿を変える。
土傀儡は、セリオの手に土の弓として形を成した。
「武器になった!?」
「何だ?この力は……」
金の光の波が緩くなり、死傀儡が動き出す。自分達に驚異を成すのはレティだと本能で悟った彼らは、一斉に上空へ向かって飛び上がる。
「レティアーナ!」
「させるか!!!」
セリオが弓に手を這わせたら、矢が現れた。連続して矢を放ち、敵に突き刺す。ユリウスは落ちてきた木に手をついて登り、枝を跳んで渡りそこから空へジャンプした。
「行かせねぇ!」
死傀儡より高い位置から剣を振り、吹雪で氷に閉じ込めて叩き落とす。
氷を割り、矢が刺さったままでも敵は何度も起き上がる。振り切って逃げることもできない数。
ユリウスもセリオも息が上がり、表情を険しくする。
そんな時だった。
「――鎮まれ。嘆き、さ迷う死者たちよ」
柔らかなアルトの声が聞こえる。
「浄化の焔」
突如発生した青い炎が、ユリウス達と死傀儡の間をぐるりと取り巻いた。
敵は苦しみの声を上げ、炎に焼かれて砂のように散っていく。
コツッと杖と地面がぶつかる音がし、そちらを向くと……。
雪のような白いセミロングの髪、先程の炎のような青い瞳を持った女性が立っていた。手に握る杖は彼女の目の高さくらいまである。
「叡智の魔女……」
セリオが呟く。
「何!?」
(良かった。あの方が……)
敵が去ったことで緊張が取れ、レティは金の光を消した。
雪狼と土傀儡も元に戻った。力が無くなったせいで翼が消え、レティが上空から落下する。
「レティ!」
ユリウスは剣を鞘に戻し、レティを受け止めた。
「レティアーナ」
セリオがレティの顔を覗き込む。
「大丈夫だ」
「寝てる?」
レティは寝息を立てていた。
「此方へ」
叡智の魔女がくるりと方向を変え、ついてくるようにユリウス達へ促す。
ユリウスがセリオを見たら土傀儡を引っ込めて歩き出したので、レティを抱え直して後に続いた。全員の後から雪狼が続く。




