切ない想いの罪2
太陽が丸く姿を見せ、雲もうっすらと言う空なのに、不気味な土地だった。
カサカサに荒れた地面にたまに枯れかけた草が生え、奥に森がある。それなのに人どころか生き物の気配が殆ど感じられない。
建物は壊れて廃れたそのまま、蔦や埃に白い蜘蛛の巣がかかっているのが近づかなくても分かった。
「セリオ、ここは本当に目的地なのか?」
セリオは何歩か歩き、信じられないと言うような顔をしている。
「何で……。ここは、前に来たときは普通の暮らしがあったのに」
「人が住んでたの?」
「人も飼われた動物もいました」
レティの質問にセリオが答えた。
「十年の間に一体何があったというんです……」
どうしたらよいか分からずに、レティはセリオを見守った。するとピクリと反応した後に、二人の表情が変わる。
「――セリオ」
「はい。マスター」
二人はレティを挟んで両側に立つ。
「グゥゥゥ……フー」
何処からか、人ではない何かの声が聞こえた。
「レティアーナ。決して僕たちから離れないで下さい」
「う、うん……」
「何者だ?」
ユリウスもセリオも同じ方向を見ている。すると、引き摺るような足音ともに、潜んでいた何かが姿を現した。
赤く濁った瞳。セリオの瞳の鮮やかな深紅とはまた違う。ボロボロの服から覗く爛れた皮膚。真っ直ぐ歩くことのできない足、通じない言葉、呻き。
口から吐かれる息は煙のような灰色。
レティの体にぞわぞわと悪寒が走り抜けた。
「死傀儡ですっ!」
(あれが、あれがリック様を……)
ユリウスは肩を光らせ、魔法陣を呼び出す。足元に同じ大きなものが広がり、吹雪が流れる。遠吠えと共に、白い狼が飛び出した。
「召還、雪狼!」
狼は低い唸りを上げて、土傀儡と共に前へ立つ。
「レティアーナ、しっかり!僕たちが居ますから大丈夫です」
セリオは、レティの小刻みに震える手を握ってくれた。
「う……あぐぁあ……」
左右に揺れながら死傀儡は近づく。
セリオはその場で右腕を後ろに引いた。そして拳を前に突き出す。
いつかユリウスの部屋のドアを無理矢理破壊したときのように、岩のような大きな土の腕が前に出され、死傀儡に当たって飛ばされる。
「ぎゃうあっ!」
死傀儡は倒れた。ところがセリオの土の腕が消える前に、接触部分から少し煙が上がる。
「セリオ、お前……」
「土のガードがあったから平気です」
セリオは手をぶらぶらと払った。
「ただ、素手で触れるのは危険ですね。普通の武器でも、通用するか分かりませんが」
「マジか……」
話しているうちに、死傀儡は再び唸りながら起き上がった。
「うちの船医様がおっしゃっていました。痛覚のない不死身だと。倒すには清められた水、つまり聖水が必要だそうです」
「そんなのこんなとこで手に入るかよ!」
ユリウスは、背負っていた自分と同じ丈ほどの剣を抜く。
「セリオ、魔女はどっちだ?」
「この先の森の奥にいました」
「倒せないなら、振り切って行くしかない」
「そうですね」
セリオは握っていたレティの手を強く引いた。抱きしめられたと思ったら、その腕は普段とは違って逞しく、大人の姿になっていた。
子どもの姿の時は可愛らしく見える黒い服も、今は本物の悪魔のようだ。
「ちょっと失礼しますよ、レティアーナ」
「わっ!」
見とれている暇もなく、レティはセリオから横抱きに抱え上げられた。
「このまま突っ切ります。僕にしっかり掴まって」
「は、はいっ」
レティは腕をセリオの首に回した。
「マスター。相手が相手です。どんな小さな掠り傷も許されません。全員傷無しで移動します」
「おうよ!分かってるぜ!行け、雪狼!」




