切ない想いの罪
雪狼は三人を小さな無人島に連れていった。そこで一旦島に降りる。
「マスター、雪狼を引っ込めてください。僕の土の能力と相性があまり良くない」
「了解」
雪狼は形を崩して雪となり、ユリウスの肩に吸い込まれた。
代わりにセリオが両手の指先を胸に当て、中心を光らせて魔法陣を呼び出した。
「出でよ、土傀儡!」
魔法陣から土の塊が飛び出して積み重なり、巨大な土でできた兵が現れる。下から見上げても、顔が伺えないくらい大きい。
レティは膝に手をついて、セリオと同じ目線で尋ねる。
「ここから移動するの?」
「そうですよ。海の下にも海底と言う地面はあり、陸は途切れません。土を制するこの子なら道を作れます」
「どうやって?」
「体験した方が早いですよ」
土傀儡の足にセリオが触れる。
「『叡智の魔女』の島へ繋いでください」
グオオと土傀儡が声を上げ地面が地鳴りを起こす。その足元に再びセリオと同じ魔法陣が出て、そして魔法陣のあった場所が黒くなった。
「きゃっ!」
「うおぁっ!何だ?」
体がバランスを失う。と言うのも、その黒いブラックホールのような穴に足が沈み始めたからだ。
「大丈夫なんだろうな!?セリオ!」
「心配しなくても、死にはしませんよ」
何かに引っ張られているように、すぐに体が地面にすっぽり埋まってしまった。
地面の下は大きな穴で、レティたちは下に落ちていった。
「うわぁあああ――!!」
「きゃぁあっっ!?」
セリオは土傀儡に抱えられて、やはり上から落ちてくる。
気づいたユリウスが 慌てた。
「そんなでかいもので後から落ちてくんなぁっ!潰される!」
「大丈夫ですよ」
土傀儡の手が、それぞれユリウスとレティを拾った。
「土傀儡の繋げた道を通れば、どんな乗り物よりも早く目的地に着けますよ」
「本当に目的地に繋がってるのか?真っ暗で分かんねぇ」
「たまに失敗して見知らぬ土地に行きますけど、多分大丈夫です」
「全然大丈夫じゃねぇだろ、それ――!!」
わあわあ騒ぎながら、上に戻る術も分からずに下へ落ちていくのみだった。
重力に任せてぐんぐん下へ進み、やがてキラリと光るものが見えてきた。
「ユリウス様、セリオくん!あれ」
レティは白いそれを指差す。
「出口ですよ、マスター」
「っしゃあ!」
土傀儡はゆっくりと体の向きを変え、段々と大きくなってくる白い光に頭を向ける。
そのまま明るい外へ飛び出した。
レティ達が出てしまうと、地下へ続く黒い穴は小さくなって閉じられた。
ズンッ!!勢い良く飛び出した土傀儡が地面へ着地した反動に堪えきれず、レティが手から転げ落ちた。
「きゃっ」
「レティアーナ!」
「……チッ」
ユリウスは土傀儡の凸凹した体を素早く走り、レティの手首を掴んでもう一方で土傀儡の手に掴まった。
「すみませぇん」
「どんくさすぎる……」
ユリウスにぶら下がる形で、レティが小さな声で謝った。二人が助かったのを確認してセリオは安堵の息を吐き、土傀儡の手を二人の元へ移動させる。
セリオもゴツゴツした腕を伝ってレティ達の所へ降りてきた。
「下へ降ろして下さい」
指示に従って、土傀儡は手を地面に着けた。ユリウスが先に降り、セリオに手を引かれてレティも見慣れない土地へ足を降ろす。




