叡智の魔女7
「変な奴だな」
「そうですか?」
「そうだよ」
ピッと額を指で押したら、レティが笑った。そしてユリウスと目を合わせる。
「お休みなさい、ユリウス様」
「お休み。……レティ」
二人とも目を閉じた。
暫くして昼間のことや慣れない船に来たりして、本当は寝られないかもしれないと様子を見てみたら、疲れからかレティはしっかり寝息を立てていた。
(破滅的に無防備過ぎる……)
顔にかかっている柔らかい髪を払ってやり、ボソッと囁く。
「襲うぞ、こらっ」
初めて会ったときにユリウスが教えたことは、本当に分かっているのだろうか?
最近知り合ったばかりの異性とこんなに近くにいて、ぐっすりとは。
だが手を出せるはずがない。ここまで安心されたら、もう裏切れはしない。
警戒心がなく懐くという性格は、かなりの防御になっているのかもしれないとユリウスは思った。
(リック兄はどうやって、こんな女を手に入れたんだよ……)
無警戒に無防備に誘いをかけておいて、下心も何も含んでいないから振り回されること必須。
伸ばせば手に入りそうで、だが実際は掠めもしないですり抜けるとは何と焦れることか。
リックがかなり苦労していたのだろうし、今もそれが続いているに違いないと思って同情してしまうのだった。
深夜にかかわらず、船内をバタバタと走る音。
「まただ!」
「急げっ!」
飛び出した何人ものクルーが、一番奥の階段を駆け下りていく。
部屋を開ける前に、荒々しい声が聞こえてくる。
「ううぅあああっっっ!!!」
ドアが乱暴に開けられる。
「やめて!しっかりして!リチャードっ!!レティと約束したんでしょっ!?」
入り口近くの壁に船医と寄って、ユーシュテが叫ぶ。
「自分を取り戻せ、リック!!!」
ディノスがまたリックと組み合っている。
集まったクルーもリックにのし掛かった。
「船長を押さえろぉ!」
屈強な男達が体に乗ったり、手足を押さえつけた。赤い目をしたリックは歯を剥き出して唸る。
「ぐあぁあああっ!」
「リック!」
「リチャード!」
「うあああっっ!」
リックが近くの腕に、服の上から噛みついた。
「いだだだだぁっ!」
被害に遭ったクルーが反射的に手を緩める。
リックは体を捻り、どこから出しているのかと言う怪力で全員を振り飛ばす。
ディノスもクルーも床に転がった。
リックはベッドから降りる。
「ダメだ!」
「船長元々強いからな。鬼に金棒じゃねぇのか!?」
「会員は秘密兵器を出せ!」
船員の何人かが服の中に手を入れる。そして、取り出した何かをリックに見せつける。
「レティアーナさんの写真だ!」
「スマイルバージョン」
「歌うバージョン」
「その他色々!」
堂々と出される写真の数々に、思わずユーシュテが突っ込む。
「ちょっ、あんたたち変態っ!」
「船長!これでもレティアーナさんに攻撃が出来ますか!!?」
「……」
リックがじっと目を細める。それから。
「うがっ!」
手で写真の数々を弾く。
「ぎゃー!!」
「本人に対して認識がいかなかったくらいだ。写真じゃ効かない!とにかく押さえろ!鎮静剤が打てない」
ディノスが指示を出し、また全員がリックにのし掛かった。




