叡智の魔女4
張本人のレティの顔が一瞬にして赤くなる。
「ごっ、ごめんなさい……」
そう言えばリックを呼びに行って、そのまま夕食を食べ損ねていた。お腹に手を当てて俯く。
「くくっ。腹減ってんのか」
ユリウスがゲラゲラと笑い出し、セリオも口に手を当てて声を出さずに笑っている。
「はっきり言わないで下さい。恥ずかしいですから……」
「とりあえず飯にすっかぁー。何か残ってっかな?」
「無ければ簡単なもの作ってもらえばいいんですよ」
「そうだな。何してんだ?来いよ」
「はい」
取り残されたレティに気がつき、ユリウスとセリオは足を止めて振り返る。
レティは慌ててユリウス達を追いかけた。
船内の食堂に案内され、残り物のサラダとスープ、そしておにぎりを出してもらった。
食事を食べていなかったのはレティだけだったが、セリオ曰く、たくさん食べたはずのユリウスも夜食におにぎりをいくつも食べたので呆れられていた。
「ご馳走さまでした。ありがとうございました。美味しかったです」
お礼を言ったら厨房から「どういたしまして」と、元気の良い返事が返ってきた。
セリオが出してくれた麦茶を飲んでいるところに、この船のクルーがどやどやと入ってきた。
「船長!聞きましたよ!女を連れてきたって」
「彼女なんかいたんすか?」
「いつの間に!?」
ユリウスやセリオが答えるより早く、あっという間に体格の良い男にテーブルを囲まれる。
「これがその女かぁー」
「こらまた子どもみたいな顔してんな」
肩を寄せ合うようにして覗き込まれ、レティは自然と後ろに反った。
「何か良い匂いがする」
「ホントだ。水商売の女の香水とは違うな」
セリオが睨むのにも気づかず、クルーは好き勝手に鼻をレティに近づける。
「えっと……」
レティが戸惑い、ついにセリオが堪えかねて口を開く。
「いい加減に……」
「船長、触ってみても良いですか?」
伸ばされた手に驚いて、レティが肩を竦める。指が触れる前に、赤い瞳が鋭く光った。
グキッ!テーブルから岩の腕のようなものが出て、クルーの腕を捻り上げる。セリオの仕業だ。
「あだだだだだぁあっ!!」
「無礼も大概にして下さいよ?誰が触って良いと言いました?」
「でも船長は何も……」
「ダメだぞ、お前ら。こいつに触んな」
ようやくユリウスが口を挟み、レティの頭に手を置く。
「リチャードの船と全面戦争したい奴だけ好きにしろー。但し、俺は庇ってやんないからな」
「え?ってことは、これがリチャード・ローレンスの女!?」
「そーいうこったなぁ」
「止めるのが遅いですよ!!!マスター!!」
セリオがイライラした口調で咎めたが、ユリウスは頬杖をついた。
「俺が口出ししなくても、お前がキレんのが早いと思ったからだよ」
「人任せにしないで下さい!」
「そう怒るなって」
ユリウスは頬杖をつき、のんびりと言った。




