叡智の魔女2
雪狼の背に揺られて四十分程経ち、ユリウスの海賊船に到着した。
「戻ったぞー」
ユリウスがひょいと軽々甲板に着地するなり、すぐに声がかかる。
「マスター。……貴方って人は全く。組織の一番上が、誰にも告げずに毎度毎度ふらふら出掛けて何考えてるんですか?」
床をほんのり照らすランプの中から、悪魔ルックの少年が現れる。腕組をして、口をへの字に曲げている。
「ごめんなさい。私がお呼び立てしたんです」
「!」
ユリウスは日常茶飯事のようで小言を聞き流していたが、レティは狼の上から小さな声を出した。
セリオの赤い目が驚きに見開かれる。
「レ……、レティアーナ!?」
雪狼は降りやすいように甲板に座ってくれたが、それでも元々が大きい体なので高さが結構ある。
レティは手をついてゆっくり降りようとしたが、すぐに足を滑らせてしまった。
「あ、きゃあ――!」
「おわぁあっ!」
横に立っていたユリウスに体当たりして、二人とも床に倒れ込む。
「いった……」
思わず閉じていた目を開けば、横倒しになったユリウスの上にのし掛かる形で倒れていた。
ユリウスの腕にレティの控えめな胸が当たっている。
ふにふにとした感触のそれに気がつき、表情が固まる。
それに気づいたレティが怒らせたと思って、すぐに起き上がって床にペタンと座る。
「ごっ、ごめんなさいっ!おケガはありませんでしたか?」
「あ……、いや」
体を起こしたユリウスは、予想と違って怒らなかった。代わりに頭の後ろに手をついて息を吐いた。
「ラッキーエロですか。」
元々の不機嫌が更に上乗せされたのはセリオで、剣呑な視線と膨らんだ頬でユリウスを見て言った。
赤くなったユリウスが目を尖らせる。
「ああっ!?何か言ったか?」
「何でも。高い位置から降りるのに、手の一つも貸さないからこう言うことになるんです。全く、マスターにエスコートなど求めたりしませんが、それにしたって気遣いが出来てないですよ。大丈夫でしたか?レティアーナ」
「私は何ともない……ですけど」
セリオの小さな手が、ぽふぽふとレティの頭を軽く叩いてくれる。
ちら、とレティがユリウスを見たら目が合って、胡座をかいたまま腕組をした彼が答えた。
「俺も何ともねーよ」
「良かった」
案の定、レティが胸を撫で下ろす。
「さて。どうして彼女を連れてきたんですか?前回と違って、連れ去りと言うわけではなさそうですね?」
セリオに尋ねられ、レティは昼の出来事を話した。
「リック様を好きなユリウス様なら、力を貸していただけるかもしれないと思ったんです」
俯いたまま、両手を握りしめてレティは言った。ユリウスは雪狼に寄りかかり、セリオは船の縁に座って話を聞いてくれた。
「泣きそうな声で乱暴に歌うから何かあったんだろうとは思ったが、それがまさか死傀儡とはな……」
「僕には全くレティアーナの歌が聞こえませんでしたが、それが分かるとは流石マスターですね」
「耳と鼻だけは自信があるからな。だが、魔女と言ってもどこを探す?セリオ、お前、魔女とか知ってるか?」




