それぞれの決意8
彼の咄嗟の判断でレティは救われ、そして彼自身が命を危ぶめるとは……。
唇を噛むレティの姿を見て、リックは手を伸ばした。その手をレティも掴む。
「レティのせいじゃない。傷つけないように守れなかった俺の責任だ」
「私、リック様と離れたくないです……」
ふわふわの絨毯の上に膝をついて、リックの手を額に当てた。
今さら離れると言われても、もう無理だ。こんなにも心にリックが入り込んでしまっては。
「出来ることは何でもします。本当に方法は無いんでしょうか?方法を知っていそうな方はいらっしゃらないんでしょうか?」
「魔女なら……」
「魔女?」
船医の言葉をレティは聞き返した。
「魔女……魔術師とも言うが、彼らはこの世の自然の摂理をよく理解した者。あらゆる薬を調合する」
「その人に会えばいいのですか?」
「だが慈善事業をしているのではない。必ず対価を要求されるはずだ。対価は話を聞いてみないとわからない」
「わかりました」
レティは頷いた。
「何をする気だ?」
リックが尋ねると、レティはリックのよく知る悲しみを堪えるような笑顔を見せた。
「前にお約束しました。リック様がピンチの時は私がお助けすると。今こそ、その時です」
レティは立ち上がり、ディノスと向き合った。
「ディノス様、船を離れる許可をください。一人では行きませんから」
リックの倒れた今、様々な決定権を持っていると思われるディノスに頭を下げた。
「私もリック様と一緒に戦いたい」
あなたの苦しみは我が苦しみ。
「リック様、早く戻ります。だから、その間だけ堪えてもらえませんか?」
「レティアーナ、それなら俺がいく。レティアーナはリックについていてやってくれ」
「いいえ。リック様の次に船を守れるのはディノス様です。ディノス様はここを離れられないはずです」
「よく考えるんだ。外に出れば守ってやれない。死ぬほど苦しい目に遭うかもしれないんだぞ?」
「大丈夫です。生きて戻ります。ここにリック様がいらっしゃる限り」
「……レティアーナ」
「ユースちゃんに、たまにリック様の様子を見てもらえるようにお願いして頂けますか?」
ディノスはレティを軽く抱き寄せた。
「レティアーナ、必ず戻れ。生きてだ」
「はい」
ディノスから離れ、レティはベッドに腰を下ろしてリックに抱きついた。
「リック様」
「レティ……」
初めて、レティからリックに唇を重ねた。
泣きそうな顔をしながらも、瞳には強い光を宿してレティは唇を離した。
リックは自分の首の後ろに手を回し、いつも髪を縛っている赤い布をレティの手首に巻いた。
「どうしても行くのか?」
「リック様、ごめんなさい。けど私も、リック様のいない時間はもう考えられません。だから行きます」
リックの手からレティがスルリと抜けていく。部屋を出ていくときに深く頭を下げ、レティは去っていった。
(この船の方が知らないなら、他の船です)




