それぞれの決意7
「もしもの時は、容赦せずに俺を殺せ。不死身だと言われても、動けないくらいにならできるはずだ」
「!」
「お前になら船を引き渡せる」
リックは浅い呼吸の合間に、乾いた喉から声を絞り出した。最悪だった。
「レティがいなければ、自分で自分を殺したり離れるくらいわけないことだ。だが、レティと一緒にいたい。一分一秒でもこの意識が途切れるまで」
「……」
「だけど、彼女やこの船で俺達を慕ってくれる皆を傷つけたくはない。我が儘だと思う。それでもお前にしか頼めないんだ」
「……わかった。けど、本当にそれしか方法がないのか――!」
ディノスはリックを見たが、この船でどうしようもないことはわかりきっていた。
「すぐには侵食させやしないさ。俺にだって意地はあるからな」
リックが笑ったとき、レティが船医を連れて戻ってきた。
「お医者様を連れてきました。あ、リック様……?」
シーツが乱れてはいたが、ディノスが離れていて尚且つリックが普通の目になっているのに気づき、レティが足を止める。
「レティ、心配かけたな」
「リック様!」
おいでと言うように両手を広げられ、レティは駆け寄った。ディノスがベッドから離れ、リックに抱きつく。
「お加減は?」
「今は楽だ」
「良かったです」
しんどいだろうに、レティを緩く抱き締めてくれて頭を撫でられる。
「診察しますよ?」
「はい」
船医に声をかけられ、レティは離れた。
診察の間、汗を拭く水をとってくるのに再度部屋を離れた。
(どうやったのかわからないけど、あの異常を止められたのだもの。もう大丈夫よね……?)
そう思いたいのに、心に不安がつきまとう。気を緩めたらリックと離されてしまいそうな、そんな恐怖に似た不安。
医務室に行ったら、血液検査の結果は異常無しと聞かされた。
それから洗面器を借り、タオルを中に浸してリックの部屋へ戻る。
階段を下りたところで、中から話し声が聞こえた。
「もし感染していた場合、残念ながらこの船には対処できる薬がありません。毒性が強いので体が堪えきれず死に至るか、もしくは――」
(死……?誰が?リック様が?)
目の前が真っ暗になるような気がした。足元がふらつく。
洗面器は両手で抱えていたので落とさずに、波打った水が服に掛かるくらいで済んだ。
中でリックが部屋の外に気がつき、手をあげて医師の話を止めさせる。
ディノスがドアを開ける。壁に寄りかかったレティがいた。
「レティアーナ……!」
「だ……、大丈夫です」
泣いている場合ではない。レティは涙をこらえ、ディノスに付き添われるように中に入った。
リックの机に洗面器を置き、船医の隣に立つ。
「聞きました。リック様は危ないんですね?」
ぎゅっと自分の手を握りしめることで、震えを押さえ込む。
(どうして傷ついた私じゃなくてリック様が……)
そう思って漸く気がついた。
「リック様が、私の傷口から血を吸い出したからですか……」




