天使の鱗片と決意3
ザッザッと草を踏む複数の足音が、至る所からする。
「はぁ……はぁっ……」
レティは後ろを振り返りながら、できる限りの全速力で走っていた。
(どうしてこんなことに……?)
十分ほど前、店の様子を見に行ってみようと出掛けたら、道を此方へ向かって十人くらいの男が上ってくるのが見えた。
レティに気がついた男達が指を指して叫ぶ。
「いたぞ!」
「一人だ、捕まえろ!」
「……えっ?」
戸惑うレティの方へ突然全員が走り出した。良く分からないが逃げないとまずいと言う雰囲気は感じ取れ、それから逃げ惑っていると言うわけだ。
幸いここが自然のままに作られた道であり、住んでいるレティの方が地理に詳しい事も手伝って、ギリギリ逃げられている状況。
とはいえ、滅茶苦茶に走ってきてしまい、帰り道は分かるがどういったルートで逃げるべきかが分からなくなってしまっていた。
少しでも息を整える為に、周りを確認して走りを止めた。木に手をつき、胸を押さえて呼吸をした。すると……。
「居たぞ!」
背後から飛んできた声にハッとして振り返ったら、男が一人レティを指差していた。
茂みを掻き分けてこちらに近づいて来る。
レティはまた走り出した。息が苦しくて脇腹が刺すように痛む。おまけに坂道しかない。
けれど、足を止めたその時が最後だ。
とにかく走っていたら、突然目の前にブルーが広がった。
「ああっ!」
反射的に足を止めざるを得なかった。ここはいつも来ている場所。岬だ。
「やっと追いついたぜ。追いかけっこもここまでか?」
体の向き変えると、先程レティを見つけた男が数メートルの距離に居た。
「逃げられねぇよなぁ?落ちたら死ぬかもしれねぇもんなぁ?死体もあがってこねぇかもしれねぇよ?ああ恐ろしい」
息を整えた男が額を腕で拭い、前に進む。その分レティは後ずさった。
(何とか隙を……)




