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それぞれの決意5

「怖いならあっち向いててください。はい。親指を中に入れて手をグッと握ってください」


背後にディノスが立って、手でレティの目を覆う。


「それじゃ、ちょっとチクッとしますね」


視界を塞がれているというのに、その中で反射的に目を閉じてしまった。


「いっ……?」

「手を楽にしていいです」

「あんまり痛くなかったです」

「でしょ?痛いのは慣れてない医者や看護師だけですよ。はい、針抜きます。終わりです」


手が外れて視界が明るくなる。いつの間にか、小さな容器二つ分も血液が抜かれていたらしい。

「絆創膏貼っておきますから、三分くらいは止血のために押さえててくださいね。早めに検査結果お知らせします」

「そうしてくれ」

「もう結構ですよ」

「ありがとうございました」


お礼を述べた後に立ち上がり、少し頬を赤くしてディノスと船医を見る。


「あの、注射のこと……」

「大丈夫です。船長には内緒にしておきますよ」


全て言わずとも何が言いたいのかわかったらしい。くすっと笑われて、かーっと顔が熱を持った。

こんな年齢で注射を怖がるなんて、恥ずかしいと思ったからだ。


「レティアーナ、先に戻っていてくれ。俺は少し話してから出る」

「はい」


頷いてレティは先に出た。人当たりのいい医師は、ドアを閉める前にレティの不安げな顔に気がついて、手を小さく振ってくれた。


(注射、嫌だなぁ……)


前回体調を崩して倒れたときの点滴は、気がついたらもうされていたので良かったのだ。

もう注射のお世話になるまいとレティは誓ったのだった。







医務室に残ったディノスは、レティの足音が聞こえなくなってから口を開いた。


「気になることがある」

「何でしょう?」


ディノスの固い表情から、あまり宜しくない話だと気がついた船医が険しい顔をする。


「レティアーナの負傷で、応急処置にリックが血を吸い出した。致し方ないことだとは思うが……」

「蛇の毒抜きにもそうする人がいますが、処置した方の口内に毒が残るので良くないです。粘膜から毒が入りますから」

「今回の場合も同じだな?」

「蛇よりも質が悪いです。うがいをするだけでは恐らく……。感染しなければ良いのですが。レティアーナさんに、あまり異常が見られなかったのはそう言うことですか。あの傷の浅さだと、そんなに大量のウイルスは入っていなかったと思いたいところです」

「……すぐに処置できないとは、呪いのようなものだな。リックの体調には気をつけておくか」

「そうしてください」


ディノスはため息をつき、医務室を後にした。







夕食の時間になり、レティは食堂に向かった。ドアを開けて賑わうそこを見たら、リックの姿が無かった。


(あれ?)


どのクルーも親切にしてくれるからどこの席に座ったって良いのだが、リックを呼びにいこうと再度廊下に出て行った。

今までも読書などでたまに遅れることがあったから、たいして気にも止めずに彼の部屋を訪ねた。

何時もならドアの前に立った時点で中から声がするのに、今日はそれがない。


(お休みになってるのかしら?)



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