それぞれの決意4
「レティ?」
リックの手が手首を掴み、レティの手をはずす。白い二の腕が赤くなっていた。
「これは……!死傀儡にやられたのか?」
「だ、大丈夫です!消毒はきちんとしますから」
「良くない。普通にケガするのとは違うぞ。放っておくと毒だ」
腕が引っ張られ、そして柔らかい感触がした。
「え、あの、リック様!?」
吸い付かれ、レティが戸惑いの声を上げる。
「どうした?」
リックの行動を見たディノスが此方へ来る。こんなところを見られるなんて、とてつもなく恥ずかしい。レティは頬を赤くした。
傷口から血を吸い出すときに、患部がチリチリと痛んだ。
口に溜まった血液をリックが床に吐き出す。
「死傀儡に当たって傷つけられたらしい。迂闊だった」
「何!?」
ディノスの質問に答えてから、リックは再び腕から血液を吸い出した。
しばらく吸っては吐きを繰り返し、ようやく腕が解放される。
「レティ、医務室に行って血液検査をしてもらうんだ」
「はい」
「ディノス、付き添ってやってくれ」
「わかった。レティアーナ、行くぞ」
「はいっ」
レティはディノスを追う。船内に入って、ディノスに問う。
「ディノス様、この傷はそんなに良くないんですか?」
「死傀儡に傷つけられると、そこからウイルスが入り込む。毒性が強いから、様々な症状を引き起こしやすい」
「そうなんですか……」
「リックの応急処置で毒が出されてるといいんだが」
「感染するとどうなるんですか?」
「それは……。詳しいことはわからない。医学については専門外なんでな。すまないな」
「いいえ」
話しているうちに医務室に着き、ディノスが扉を引いてレティの背中を軽く押して中に入れた。
「ああ、ディノスさん。お疲れ様です」
机に座っていた船医が顔を上げた。
「レティアーナの傷口に異常がないか診てもらいたい。血液検査も頼む」
「承知しました。そちらへお掛けください」
レティは机の側の椅子に座った。
「先程聞いたのですが、死傀儡が入り込んだとか?」
「ああ。遭難者だと思って船に引き上げたらしい」
「善意じゃ責められませんね」
船医はレティの傷口の周りを指で軽く押す。
「痛かったり違和感は?」
「ないです……」
「今のところ、腫れたりはしていないようです」
戸棚の引き出しから注射器が出され、腕の上部をゴムで縛られた後に、エタノールを染み込ませた脱脂綿で傷口を消毒された。
「女性ですし、血液見るのが苦手とか無いですね?」
「それは大丈夫です」
袋から針が出され、レティは消え入るような声で聞いた。
「……注射ですか?」
「おや。注射が苦手ですか?」
「あんまり経験がないですし。それに……痛いです」
「かすり傷で泣かないくらいなら、針が刺さるくらい何とでもないでしょう」
「うぅ……」
「ちょっとチカッとするだけで、そんなに痛くないですよ」
怯えた子猫のような目をされて、船医は困ったように笑った。レティは横を向く。




