INNOCENT PRINCESS6
上に上がったと思ったら急降下し、街を走り抜ける。道行く人々がざわつきながらレティと後を追うリック達を見た。
追いかけるというそれ自体がレティを喜ばせているようでますますスピードが上がる。挙げ句、もう少し立てば見失いそうだった。
「脇腹が痛いぃー。レティ意外と速いんだから!」
「埒があかねえよ、リック兄!」
ユリウスは袖を捲った。肩が光り、魔法陣が浮かび上がる。気づいたリックが隣を走るユリウスに言う。
「よせ!加減を間違ったら大ケガさせるぞ!」
「だけど、もう見失いそうだろ!ターゲットを追うには嗅覚だ。そして俺のこいつならスピードも申し分ない!」
一旦立ち止まり、足元に魔法陣が出てくると同時に肩から雪が噴き出してユリウスの腕に絡む。
「召喚!雪狼!」
腕を前に振り、集まった雪が走る狼になった。
「あのガキを追って無事に止めてくれ!」
狼は遠吠えをして形を崩し、吹雪になった。そしてそれが散り、以前船でレティが見た白い仔犬のような狼の姿になる。
キャンキャンと可愛らしい高い鳴き声を上げながら、先にスピードを上げて走り出した。
「リチャード!あたしも先に行くわ!」
「頼む!」
ユーシュテは地面を蹴って跳び上がり、くるりと回転してコロポックル姿で子狼の背中に乗った。
「ちょっ、休憩……息が……」
坂道を走ると言う地獄にセリオが胸を押さえて立ち止まり、残り三人も走りを緩める。
「セリオ!お前大丈夫か?」
「平気です、マスター。少し休めば……」
「悪意がないって恐ろしいな」
「まったくだ。まあ、ユースが先に行ったから危ないことにはならんだろう」
はあーっと全員息をつき、膝に手を当てたり近くの壁に寄りかかって座り込んだりして、息を整えるための休憩に入った。
「リック兄も、鳥なんだから上から追えるんじゃないのか?」
「鳳凰は普通の羽ばたきだけで結構な風を起こすから、追えても近づいて捕まえるのは無理だ。レティが吹き飛ばされる」
「力が強すぎるというのも考えものですね」
「確かに……」
「追いついてきた!」
狼の背から見て、レティの後ろ姿が段々近づいてくる。
(ここで声をかけたら遊びだって思われて、また撒かれるわね……)
「レティの前に回り込むなりして、動き止められる?その後仲間で囲んで捕まえられるかも」
ユーシュテの問いかけに、キャンと高い鳴き声で反応があった。
狼は空中の水分を氷にして固め、足場を作って階段を上るように上へ走った。
サイドの二匹はスピードを上げて、家の屋根を伝って走る。もう一匹もスピードを出してレティの下に回り込み、正面に立った。
特有の遠吠えを出し、レティが気づいて少し止まった。
目の前の狼が背を向けて尻尾をフリフリさせて興味を引く。
「うわー」
レティが嬉しそうに近づいて手を伸ばした瞬間、下を潜って逃げ出した。レティはそれを追う。
方向転換したせいで、ユーシュテと向かい合う形になった。




