メロメロBaby Princess8
そう言えばお互いに歳を聞いたことはなかったとリックは気づいた。
レティは十代後半だろう。リックは二十五歳。そんなに離れていなかったが、現在の状態だとレティが年頃の十六、七歳になる頃のリックは……。
「ヤバイ!」
リックは両手で頭を抱えた。
(見てくれを気にするわけではないが、俺はそれで構わないとしてもレティが……)
出会ってからレティの心の変化に合わせてゆっくりゆっくり歩んで、気持ちを寄り添わせ、やっと心も体も通じあったばかりだと言うのに。
このままでは育てるうちにレティの親になってしまい、関係が変わりそうな気がする。
「レティが大人になる頃、あたし達中年かぁ」
「流石にその状態まではいかんだろう」
ディノスが冷静に言った。からかいを阻止されたユーシュテは唇を尖らせた。
「わかってるわよ。もぉ、つまんない」
「何!?俺をおちょくってたのか!」
リックが眉をつり上げた。
「誰かさんがあまりに必死なんだもの」
「一大事に必死にならずにいられるか!今回と言う今回は許さんぞ……」
「何よ!」
「何だ!?」
リックとユーシュテの間に火花が散ったとき、小さな声がした。
「……う」
目の前で繰り広げられる光景を見たレティの大きな瞳が揺れる。
元々の姿の時から、争いを好まない温室育ちの極みだった彼女だ。子どもになれば更に強調されるだろう。
「うっ、う……」
震えてみるみるうちに涙が目を縁取った。
「嘘……」
「げっ」
ケンカがピタリと止まり、代わりに二人は焦りだした。
「ふぇ……うぇーん」
横から大きな腕が伸びて、泣き出したレティを抱え上げた。
「二人とも子どもの前でケンカなんて何やってんですか。怖かったでちゅねー。よしよし」
ジャンは二人を咎めた後に、腕を揺すってレティを宥めた。
子どもに泣かれては罪悪感が沸き上がり、リックもユーシュテも項垂れた。
「すいませんでした……」
ディノスはレティの頭に手を乗せて撫でてやりながら、リックの方に視線だけを向ける。
「落ち着け。呪いの効果が破れれば元に戻るだろう」
「それはいつのことだ……」
「わからんが気長に待つしかないだろう。それよりこの船には着せてやる子どもの衣服がないぞ」
「そうか」
リックは現実的な指摘を受けて、少し気を取り直した。
「とりあえず服でも買いに行くか」
ユーシュテはジャンに手を伸ばし、レティを抱かせてもらった。
泣き止む途中でグズグズ言いながら、レティはユーシュテの肩に頬をつけた。
彼女が体の向きを変えたときに、小さな手を握って口に当てたレティと目が合う。うるうるとした大きな目がぱちくりしている。
(か、可愛い……)
「これはこれで……まあいいかぁ」
リックが僅かに顔を赤らめて呟くと、ユーシュテが白い目をした。
「やっぱりロリコンじゃない。レティ、あの人に近づいちゃだめよ。ディノス、買い物に行きましょう」
プイッとリックに背を向けて、ユーシュテは元々着ていたレティの服で体を包んでやり、船の外に向かって歩き出した。
ディノスは苦笑いを浮かべながら、後に続く。
「誰がロリコンだ!つーか、待て!勝手に連れていくな!」
リックは慌てて二人の後を追った。ジャンも何やら考え事をした後に、船を降りるために階段へ向かった。
「とりあえず様子見ってことで良いんですかね?」
「そうだな」
取り残された見張りのクルーと船医が、出掛けるメンバーを見送った。




