メロメロBaby Princess5
「リック……様……」
レティは床に膝をつく。体が崩れ、床に倒れた。金の羽根にヒビが入って砕け散る。
「レティ!!」
「レティアーナ!」
「お嬢ちゃん!!」
ユーシュテ、ディノス、ジャンの声が重なる。
リックの魔法陣が消え、放心状態で床に膝をついた。震えながらレティが微かに目を開ける。
「……ク様?……だいじょぶ……です……か?」
「俺は何ともない!けどレティが……!何で!!」
「私も、守りた……て。……うぅ」
レティの体が赤く点滅を始める。痛いのか苦しいのか、眉を寄せながら冷や汗を流して縮こまった。
「船医を呼ぶわ!」
治療が主の船医は、リックの船では表立って戦闘に加われない。
中に当番がいるはずだとユーシュテは船内に駆け込んだ。
「レティ!死ぬな!頼む!」
今までになくリックの声が焦る。揺さぶろうとした手をディノスが掴んで阻止した。
「何の影響があるかわからん。動かすな」
呼吸を荒くするだけで、もう呼び掛けにすら答えてくれない。
リックの呼吸も心拍数も一気に上がる。床についた手を拳にして握りしめた。
リックの髪がざわざわと揺れ出す。
(……許さない、許さない、許さない!!!!)
魔法陣が床に現れ、天に向かって螺旋状の風が上昇する。
あまりに凄い怒りの波動に、船中を取り巻いていた邪眼が消え去った。
「鳳凰っっ!!」
リックは俯いた状態で立ち上がり、羽織るだけだったジャケットの袖に腕を通す。床に投げ出していた剣を拾う。
上を見上げたら、風が集まって船の上に鳳凰が現れた。
「リック!?」
強風に煽られ、ディノスが身を屈めてレティを庇いながらリックを見る。
「レティは死なせない」
(必ず捕まえてレティの苦しみを絶ってやる)
「待て、リック!リック!!!」
リックは走って縁に足を掛け、跳び上がった。船の外に出た体を鳳凰が背に乗せて、空へ上昇する。
矢の放たれた方向、船を眼に入れられる場所。
いつもより感覚を鋭くし、気配を拾う力に神経を集中させた。
鳳凰は前に進む前に羽根を羽ばたかせ、風で出来た小さな鳥の分身を幾つか作り出す。その鳥と共に前へとスピードを出して飛び始めた。
(まだレティを望む場所に連れていってもないんだ……)
「必ず探し出す!」
リックの言葉に了承を得た鳳凰が鳴き、流星のようなスピードで小さい鳳凰が先に飛び去った。
小さな鳳凰が木々や街中を駆け抜ける。
「敵船はない……。と言うことは、山の方だな」
リック達も木々の生い茂る方へ進むことにした。
緑の重なる上から気配を追う。確かに悪意が感じられた。
(まだこの中を抜けて街に出てないはずだ)
そう思ったとき、鳳凰が止まって鳴き声を上げた。
「見つけたか!?」
鳳凰の眼が光り、リックの目に魔法陣が映る。見えるのは、体格の良い男とそれを囲むように走る数人。
小さい鳳凰が見ている景色が、リックの視覚に共通しているのだ。




