妖艶な悪魔の仕返し9
「あの、えと……。リ、リック様?」
騒ぎが収まり、ユーシュテは部屋に帰ってしまった。そして暫くして戻ってきたリックに抱えられ、レティは彼の部屋に連れてこられていた。
リックはベッドに腰を下ろし、レティを膝に乗せてただ黙って抱きしめている。
レティがどうしたのだろうと思って声をかければ、優しく笑って額をくっつけてくれた。
するとレティは嬉しそうに笑い、リックに身を寄せながら言った。
「まさか、セリオくんが大きくなれるなんて思わなかったです」
いつもなら何と言うことはない会話。それなのに、今日は少しリックの眉が潜められる。
「こらっ」
リックは優しく言い、レティの背中から回した手で細い腕もしっかり抱いて、ベッドにそのまま倒れた。
身動きできないほど抱きしめられて、レティが驚く。
「リック様?」
リックは片腕をレティの顔の横につき、ニヤリと笑った。
「他の男の話をする悪い口は、どの口だ?」
「え?」
「喋れないようにお仕置きだ」
「あ、リック様っ……んっ!」
ベッドとリックに挟まれて動けないまま、唇を塞がれる。
縛られているわけではないのに、身動きできないこの状態ではそれと変わらない。
いつもは戸惑うレティに合わせて優しくしてくれるキスも、何故か荒っぽくて。
逃げても逃げても追いかけ追い詰め、絡んで吸い上げられて。
飲み込みきれない液体が口の端からこぼれ落ちる。
息継ぎすらもままならない性急なそれは、甘い痺れと共に目眩すら伴って。
熔岩のように熱せられた、リックの想いが注がれる気がした。
本当に息苦しくなってもがき始めた頃、リックは漸くレティの唇を解放してくれた。
お互いに浅い呼吸が絡み合い、心拍音を更に上げる。
「俺だけを見てくれ、レティ」
キミの視界を、脳内を全て。心も体も埋め尽くすのが自分だけであれば良いのに。
変質的だとすら思えてしまう、自分勝手な考えを知ってか知らずか。
レティが呼吸を整えながら、リックに向かって両手を上へ伸ばす。
「リック様、リック様。私の心はリック様のものです」
伸ばされた手が、やがて首に絡みついてくる。
甘え擦り寄せてくる体がとても愛しくて。
すぐに煽られてしまう嫉妬心が、この瞬間にとても馬鹿げたものだといつも思い知らされる。
安心と切なさと愛しさが、心を縛りつけて止まらない。
「魔性……か?」
「はい?」
「いや、何でもない」
リックは緩く頭を振って頬を手で包み、またレティに唇を重ねるのだった。
今度は優しく、優しく。
この枯れることのない愛しさを、どう調理しようか?
唇を再び離し、リックはレティをぎゅっと抱いた。レティの細い腕も、リックの背中に回る。
「レティ、名を呼んでくれ」
「リック様?」
「もっとだ、レティ」
「リック様……」
「もっと」
「リック様、大好きです。リック様っ」
バカみたいに名前を呼び合って、そして心を溶け合わせよう。いつか眠りに落ちるまで。




