妖艶な悪魔の仕返し8
「自分から誘っておいて、僕のことが分からないんですか?」
銀髪から覗く赤い瞳が、痛みを堪えて潤っている。
「セリオくんなの!?」
「そうですよ」
セリオは呆れ顔でため息をついた。
「寝込みを襲おうなんて、いい度胸してんじゃねぇか?しかもリック兄の船で。どういうつもりだ?」
ユリウスがセリオの襟に両手を掛け、引っ張り上げる。
「船長として、このままお前を放っておくわけにはいかねぇぞ」
「挙げ句風呂で堂々と女の裸見るなんて、処刑よ。処刑。取り敢えず目は潰すわ」
ユーシュテも目を尖らせ、怒りのオーラで凄む。
「……そんなに熱くならないで下さいよ。いつまでも子ども扱いされるから、ちょっと驚かしてやろうと思っただけです」
「悪戯で済む限度越えてんぞ……」
反省のない態度に、ユリウスが歯を剥き出す。
「そりゃ、半分悪戯で半分本気だからですよ」
セリオの赤い瞳がユリウスの肩の向こう、リックを捉える。
「誘ってきたのは彼女です。仕方ないですよね?」
「!」
「それから、マスター。貴方が自分の気持ちに気づくまでに、僕は一足先に攻めますから」
それだけ言ってセリオはそっぽを向いて舌を出した。
リックとユリウスの頭に石が当たったように、カチンと熱が上る。二人同時に拳を作って叫んだ。
「やっぱこのガキ、生かしちゃおけん!!!」
セリオはニヤリと笑い、体を縮めた。
「レティアーナぁ……。怖い」
「セリオくん」
子どもの姿に戻り、レティの腰に抱きついた。キラキラと潤ませた目に、レティの同情心が煽られる。
「お二人とも、もう許してあげてください……。セリオくんが泣きそうです」
「お前は何回騙されてんだ!本当にボケ女だな!!」
ユリウスが突っ込んでセリオを引き剥がそうとしたら、襟を掴まれた。次にセリオも同じように掴まれる。
我慢の限界を超えたリックが二人を引きずって連れていく。
「リック様……?」
レティは床に手と膝を付いてポカンとし、ユーシュテは肩を竦めて三人を見送った。
「リ、リック兄?」
ユリウスがリックを見上げたら、昼間と比ではないくらい、ドラゴンよりも恐ろしい形相をしていた。
黒いオーラが怒りの度合いを物語っている。
「ヒッ!」
甲板に着き、リックは腕を振り上げた。
「お前ら……、自分の船に戻れぇッッ!!!」
「あぁああー」
叫び声を上げながら、ユリウスとセリオが空に舞った。




