妖艶な悪魔の仕返し7
ドライヤーで髪を乾かし、レティは立ち上がりながら肩にかけていたタオルを二つ折りにし、椅子にかけた。
セリオはベッドに腰を下ろして、足をブラブラさせながらレティを見ていた。
「お待たせー。じゃあ遅くなったし、寝よっかぁ?」
レティがドライヤーを引き出しに戻して振り返れば、セリオがコクリと頷いた。
紺のブーツから足を抜いて、足元に揃える。
「セリオくん壁側で良いよ。落ちたら大変だし」
「分かりました」
セリオが壁側に寄り、レティがスリッパを脱いでベッドに上がった。
「狭くない?」
「大丈夫です」
「そっか」
セリオが冷えないようにタオルケットをきちんと肩にかけてやり、レティもベッドに横になった。
目の前の触り心地の良いサラサラな髪を撫でながら、目を閉じる。セリオも同じように目を閉じていたが、レティの手の動きが鈍くなってついに止まってしまうと、ゆっくりと目を開いた。
「レティアーナ?」
声をかけても返事がない。布団に手をついて起き上がるとスプリングが軽く軋み、セリオの頭からレティの手が滑り落ちた。
「後悔しないようにって、忠告しましたよね……?」
ベッドに沈む手が段々大きくなる。体も逞しくなり、大人の男性の体格になったセリオがレティを見下ろした。
「人を散々子ども扱いして。こんな顔をして寝るなんていい気なもんですね」
規則正しい寝息をたてるレティの頬に触れ、そこにかかる波打つ髪を指先で払う。
「マスターの言う通り、貴女はもう少し危機感や警戒心を持つべきだ。レティアーナ……」
肩に手をおいて、仰向けにそっと転がす。
右手首を押さえつけてベッドに沈め、細い首筋を指先でなぞり、そのまま夜着の合わせ目に手をかけた。プチプチと一つずつボタンが外れ、白い肌が闇なれした目に浮かび上がる。
まだ眠りの浅いレティが、うっすらと目を開けた。
(誰……?)
殆ど開いていない目では、状況をよく捉えることが出来ない。
「リック……様……?」
(分からない……)
結局そのまま目を閉じてしまった。セリオが怪しい笑みを浮かべ、まるで乙女の血を吸わんとする吸血鬼のように身を屈めたその時。
バンッ!!部屋の扉が勢いよく開いた。
「レティっっ!」
眠るレティの上に跨がる銀髪の後姿。妖艶な顔つきをしたセリオが振り返った。
「こんの、エロガキがぁっっ!」
リックと同時にユリウスが部屋に入り、セリオの脳天に拳骨をお見舞いしてベッドから叩き落とした。リックはさっとレティをベッドから起こして自分の胸に庇う。
「!」
流石のレティも目を覚ました。
この抱きしめてくれる大きな手、逞しい肩、香りは。
「リック様?」
「大丈夫だったか、レティ?」
「大丈夫って、何がですか……?」
訊ね返したら、スイッチを入れる音と共に部屋の明かりがついた。
ユーシュテが腕を組んで入り口に寄りかかっている。
「間一髪だったわね」
「……ったぁー」
側で呻き声がして、レティは顔をそちらへ向ける。
「えっ!え!?どなた様でいらっしゃいますか?」
頭を抱えてうずくまる大きな体を見て、レティが目を丸くする。




