妖艶な悪魔の仕返し4
「何だ、この声。聞いたこともねぇ……」
優しい顔で歌う彼女が、少しの明かりに照らされて歌う姿はとても煌めいて、心が惹き付けられるように高鳴るのはアルコールのせいだけではないはずだ。
レティの月夜に蕩ける歌の余韻が消えてから、ユリウスはフラフラと立ち上がった。
彼女の元に歩き、セリオの膝に手をついてレティに顔を近づけた。
「おい、ボケ女」
「はい?」
「俺はお前のことをただの女だと思ってたが、今のぉ……歌は良かったぞ。好きだぁっ」
鼻が触れあいそうな距離に、リックが眉間を僅かに険しくした。
「マスター、お酒臭いです」
「お前、酔いすぎだぞユリウス。レティから離れろ」
リックがため息をついて、ユリウスの腕を引っ張って行く。
「俺はぁ、お前の歌が好きぃ……だぁー」
ぐでんぐでんに顔を赤くしたユリウスを見て、レティは困ったように微笑んだ。
「認められたって言うことで良いのかな?」
「どうですかね」
セリオが足をブラブラさせながら答えた。
「久々に見られながら歌ったら、緊張して汗かいちゃった。お風呂入ろっかな。セリオくんもどう?」
「いや、僕は……」
赤くなって断ろうとしたセリオに、レティはギュッと抱きついて言う。
「ここのお風呂、とっても大きくて気持ちいいんだよぉ。一緒なら怒られないよー」
「だから、子ども扱いしないで下さいよ。……まったく。どうしてもって言うなら、付き合ってあげます」
「決まりだねっ!」
木箱から二人で降りて、レティはセリオと手を繋いで船内に入った。
「今日のお湯は青だ」
タオルで前を隠し、セリオと浴場に入ったレティ。
数日ごとに変わる湯の色は、今日になって青になっていた。
「海みたいだねー」
少し視線を下に向けたセリオへ嬉しそうに話しかける。
シャワーの所から洗面器を二つ取り、一個をセリオに持たせてお湯を浴びる。
それからお湯に体を沈めた。
「気持ちいいー。セリオくんもおいでよ」
レティに言われ、セリオも同じようにして湯船に入ってきた。
レティは上がるための段になったところに腰を掛けていたが、最初から完全に湯船に浸かったセリオは、突然噴き出した泡に驚いた。
「!」
足を滑らせて、お湯の中に入ってしまう。
「セリオくん!」
レティは直ぐにお湯に手を入れ、セリオの小さな体を引っ張り出した。
「大丈夫!?」
「けほっ……。平気です」
「驚くよねぇ。私も最初ビックリしちゃった。ジャグジーって言うんだって」
「それくらい知ってますよ。本で読んだことがあります。まさか、ここで出るとは思いませんでしたが……」
「ホント?セリオくん、すごいね。物知りなんだぁ」
ニコニコしながら、レティはセリオを抱えて湯船の底に腰を下ろした。
「放してください」
「何でー?」
「それは此方の質問です。どうしてくっつきたがるんですか?」
セリオはレティの腕に手をついて、抜け出そうとしながら聞いた。
「だって弟みたいなんだもん。ずっと一人っ子だったから、弟とか妹とか憧れだったんだよ」
「だから、子ども扱いしないで下さい」
セリオは振り返った。
「僕だって男なんですよ」
「え?」
相変わらず嬉しそうなレティは、セリオの心の内など微塵も理解していないようだ。
諦めるしかないとセリオはため息をついた。




