妖艶な悪魔の仕返し3
鳳凰に乗ってリックやディノスと共に戻ったレティは、やきもきしながら待っていたユーシュテに抱き締められた。
周りのクルーも取り囲んで手を叩いて喜んでくれた。そして数時間後。
甲板にはつまみや食べ物の乗った皿や酒瓶が幾つも置かれていた。
「目指せー【光の楽園】!」
「俺たちゃ自由奔放海賊よー」
「イェイイェイ!」
「フー!」
リックのクルーとユリウス、彼の船のクルーが肩を組んで、顔を赤くしながら勝手に作った歌を大声で歌っている。すると。
「うるさぁーい!」
下手な歌に堪り兼ねたユーシュテが彼らに跳び蹴りで突っ込み、雪崩のようになって倒れた。先に起き上がったユリウスが怒り出す。
「何すんだ!このエロ女!」
「誰がエロよ!」
「短いスカート履いて、足と胸を見せつけてりゃ歩くエロだろ!」
「そんなこと考えてるあんたがスケベよ!このむっつりムラ男!」
「んだと!女だと思って我慢してりゃ……」
ユーシュテは腕を組んで、まだ転がっていたクルーの背中に片足を置く。艶かしい足の煌めきに、男達が顔を赤くする。
「あらー、やるの?」
「そこに出ろ!俺は女だからって容赦しねーぞ!」
見かねたディノスが床から腰を上げ、歩いていって二人の間に入った。
「ユース、煽るな。ユリウスも止めておけ。またリックにどやされるぞ」
「楽しそう。ユリウス様、元気になって良かった……」
ジャンから受け取ったカクテルを飲みながら、レティが呟く。
「立ち直りが早いのがマスターの取り柄の一つですから」
「セリオくん」
「あの人は直情型でバカで無茶苦茶で、だけど思いやりのある真っ直ぐな人です」
「それ、褒めてるの?」
「一応褒めてます」
セリオはオレンジジュースだと思われる液体が入ったカップを置いて、レティのいる木箱に登ってくる。
一生懸命登ってくる姿が可愛くて、レティは手を伸ばした。彼の脇に手を入れ、自分の膝の上に座らせる。セリオが赤くなった。
「ちょっと!」
「良いじゃない」
「背丈が小さいからって、子ども扱いしないで下さい」
不服な顔をしながらも、レティが手を伸ばして渡した自分のグラスを受け取り、中身をチビチビ飲む。
「セリオくん、お月様が出てるよ」
嬉しそうなレティに、セリオが問う。
「マスターから伺いました。貴女がこの船に乗せられたのは、リチャード・ローレンスから歌を気に入られたからだと」
「きっかけはそうだね」
「その歌、聞かせてくれませんか?」
「え?何か興味津々で言われると恥ずかしいなぁ……」
「俺も聞きたいぞ」
いつの間にか隣に立っていたリックが此方をみていた。
レティは頬を染めて、月を見上げた。そして息を吸い込む。
僅かに残る大切な思い出の一つ。母のピアノから受け継いだ歌を響かせた。
ユリウス、セリオを始めとする歌を初めて耳に入れる者の顔が驚きに染まる。




