妖艶な悪魔の仕返し2
「つまりマスターは、自分の憧れの人の船をストーカーのように監視して、自分が認められない相手がいるから駄々を捏ねてるわけですか」
「セリオ!お前誰の味方だ!それに俺はストーカーじゃねぇえ!っつー……」
大きな声を出したら、打撲したところがキーンと痛んだ。
「大丈夫ですか?あまり興奮なさらない方が」
レティがふわりと額に手を乗せた。
「……チッ」
目を反らして、呟く。
「お前はそうやって、誰も彼も警戒心を無くして近づくのやめろよな」
「え?」
「俺はお前から無理矢理服脱がせたんだぞ!」
「ほーお?ほーお、ほーお……」
思わず口走ってしまったら、横で聞いていたリックが剣呑な視線になった。
「レティに何したって?」
「え?だから、これには色々と……」
「レティの格好を見て、何かおかしいと思っていたが。ちょっと詳しく話聞かせてもらおうか」
「まっ、リック兄!え?あっ!うわ――っ!」
段々とリックのオーラが黒くなっていく。
リックはユリウスの襟首を掴んで引きずっていき、真上からガツンと手加減なしの拳骨を落とした。
「ずびばぜんでじだ(すみませんでした)……」
泣きながらユリウスが床に転がった。
「ユリウス様!」
痛々しい音に一瞬目を閉じ、その後のユリウスを見てレティが焦る。
「レティアーナが気に病む必要はない」
ディノスが歩いてきて冷静に言った。
「ユリウスだからあの程度で済んでいるが、これが他の敵船なら間違いなく沈められてるところだ」
「けど……」
レティは立ち上がって、リックの隣に歩いて行った。そして見上げる。
「リック様、許してあげてください。ユリウス様は、リック様と私のために……きっと」
床に膝をつき、まだ転がっているユリウスの頬に触れた。
「戦えない私が捕まったときに、酷い目に遭って傷つかないように教えてくださったんです。確かにお部屋に閉じ込めらたりしましたけど、それも他の船からの攻撃があったとき、私のいるところに敵の方が入り込まないようにということだと思います。ユリウス様はお優しい方です」
あの時、服を剥がれたレティを撫でてくれた手は、荒っぽかったけど優しさも持ち合わせていて。
「そうですよね?ユリウス様」
「勝手に思ってろや」
レティの問いに、ユリウスは寝転がったまま赤くなって舌打ちをした。
レティが再度リックを見上げたら、ため息をついて笑っていた。
自分の気持ちが通じたんだと分かり、レティも笑顔になった。
「力を持ち、戦えることが全てじゃない。例え力を持たなくても、それでも守りたいと思う相手がいたなら、それが自分を突き動かす大きな強味になる。ユリウス、お前にもわかる日が来る」
リックの大きな手がレティの肩を抱いてくれる。そして少ししょげているような弟分に、リックは言った。
「そうだ。久々に飲むか?ユリウス」




