忌まれる美しき歌声の理由(わけ)6
「そうか。辛いことを話させてすまなかった」
「気にしないで下さい」
リックが謝ると、ジョアンは頭を振った。
カウンターの向こうに行き、自分が使った空のカップを流しに置く。
「もう一つ聞いても構わないか?」
「何でしょう?」
「彼女を母親のように愛しているか?」
リックの問いに、ジョアンが軽くハハハと笑って頭を振った。
「それはないです。例え忘れ形見でも、あの子と母親は違う。娘として親心で愛するだけです」
ジョアンは磨くためにグラスと布を取り出したが、磨かずに置いてしまった。
そして何かを決心したようにリックを見る。
「自分からも聞きたいことがあります」
「言ってくれ」
「あの子に興味がおありですか?」
問われてリックは笑みを浮かべた。
「答えはイエスだ。俺は……レティをこの島の外へ連れ出そうと思ってる。だが彼女はせめて成人するまでは、マスターへ恩返しのために側にいたいと言った」
「そうかそうか。あの子がそんなことを……」
中年男の目をうっすらと涙が覆う。
「やはり彼女の子だ。血の繋がりは無くても……。あの子の母親も優しかった」
続きを話そうとしたジョアンを邪魔したのは、リックだった。
不意にジョアンへ手の平を向け、待ったの意を示す。
ジョアンはリックと同時に入り口へ目を向けた。
すぐに入り口に人が立ち、新調したドアを潜ってくる。
「何だぁ?ここで働いてるんじゃなかったのかよ?」
ジーンズのポケットに両手を突っ込み、やや屈むような姿勢の男が店を見回すように足を踏み入れた。
その後にも数人、目付きの悪い男が入ってくる。下卑た笑い。明らかに歓迎できる客ではなかった。




