漣の合間に初めてその歌を聴く
それは波に乗る美しい心。
歌が誘い
出逢い
そしてキミを手に入れた。
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どこまでも果てしなく広がる透明なブルー。
それが太陽の光を弾き、ゆらゆらと揺らめくダイヤの粒のような煌めきがいくつも浮かんでいた。
そこで聞いた。漣にかき消されそうになりながら、それでも風に乗って届く澄み渡る声を。
今まで座ったまま、うつらうつらとしていた男が目を開けて突然立ち上がったものだから、仲間が驚く。
「どうかされました?」
「声……」
(鳥?――いや、これは……歌?)
「歌が」
足を止めた仲間の数人も、耳を澄ませているようだ。が、お互いに顔を見合わせて首を振る。
「聞こえませんよ?」
「今まで眠ってたから、夢でも見ていたんじゃ」
もう一度、遠くの方を見る。周りにはまだ、島や通りすがりの船すら何も見えない。
(夢?だったら、起きている今も聞こえてるこの途切れがちな歌は、幻聴だとでもいうのか?)
バカ言え、と唇だけを動かし、それから口の端を吊り上げた。
そこまでいくほど歳を取ってもいない。これは絶対に何かあると予感が心を擽って昂らせる。そんな時だった。
「近くに島があるそうですが!」
ドアが開き、そこから出てきた男が知らせに叫んだ。答えは迷うまでもない。
次にどの島に行くかは自分が決定権を握っている。
前回の話では、ここの辺りに島があるなど聞かなかったはずだが……。
そこを見落とした理由が。
蓋を閉め忘れてひっくり返したインク壺の飛び散った中身が、たまたま海図のそこにかかって黒くなってたからとは。
(阿呆みたいだなぁ)
嘘とも取れそうな理由に、呆れ笑いが出た。
ともあれ、自分が耳にした歌はそこから聞こえてきたのかと確信を得たので、少しのインクの染みに隠れてしまうような、小さな小さな島へ寄ることを決めたのだった。
二時間半もすれば、島へ着くらしい。
あの歌はその島のどこから聞こえてきたのか。
今は聞こえなくなったそれは、何者が歌っていたのか。
人か、人ならざる者か。
その興味心を満たすがため、まだ見えぬ島の何かを想った。
真っ赤なロングジャケットが、風に煽られてはためいていた。