見慣れぬものにはご用心6
「マスターが部屋に連れていくところをチラリと見かけたので、どんな人か気になって見に来たんです」
「マスターって、さっきの方?」
「彼はユリウス・バートレット。この船の船長です」
「そうなんだ……」
頷く。部屋が大きいので、船長か副船長だろうとは思っていた。
レティは膝に手をあてて屈み、尋ねた。
「貴方のお名前教えてくれるかな?私はレティアーナって言います」
「……セリオ」
「セリオくん……は、ユリウス様がどこにいらっしゃるか知ってるの?」
「あの方は良くうろうろされるので……。ですが、大方の検討はつきます」
「じゃ、そこに案内してほしいな」
「それは出来ません」
「あーん。そうだよねぇ……」
レティは苦笑いを浮かべた。それからセリオを見て、あることに気がつく。
「あれ?袖口が解れてるよ?」
緩めのヒラヒラとした袖口の一部が、ひきつれて糸が出てしまっている。
セリオはそこを隠すように手を当てた。
「後で糸を切るから大丈夫です」
「止めた方がいいよ?広がっちゃう」
レティは手を差し出した。
「見せてみて?お裁縫道具があるなら直せるから」
セリオはレティの顔をじっと見る。
「本当に緊張感のない人ですね。マスターが呆れるのも分かります。僕は、貴女を閉じ込めた人の仲間ですよ」
「大丈夫。ユリウス様、何となくだけどそんなに悪い人じゃないみたいな気がするの。仲間のセリオくんもきっと同じだと思うし」
にこりと笑った顔に、セリオは少し頬を染めて視線を反らす。そして言った。
「……どうしても直したいって言うなら、お願いしなくもないです」
「うん」
レティはカッターの刃を戻し、元あった場所に立てる。
その間にセリオはベッドにリュックサックを置いて座り、上着を脱いだ。
そしてリュックサックの中から裁縫セットを取り出す。
「ありがとう。借りるね」
セリオの隣で針穴に糸を通し、裏側に糸を引き込んで、まつり縫いで手早く処理をしてしまった。
「速いですね」
「あんまり見られると緊張するなぁ……。針もあるし危ないよ?」
身を乗り出して凝視するセリオに笑い、針を動かして縫い付けながらレティは言った。
「じゃーん。出来ましたぁ」
ひきつれは殆ど見えなくなり、ぶら下がっていた糸もない。
「はい、どうぞー。可愛い服だから、傷めたくないもんね」
「これは……見事です」
袖口を確認し、パーカーを着て前を留め、また袖口を見つめてセリオが感心している。
「そのまま糸を切っちゃったりお洗濯しちゃうと広がるから、その前に処理した方がいいんだよ」
「そうなんですか。いつもこんなことを?」
「毎日じゃないけど、必要があればするよ。元々一人で暮らしててそんなにお金があった訳じゃないし、すぐに買い替えないで長持ちさせるようにね」
針と糸切り鋏を小さな裁縫セットに入れ、セリオに返した。
彼がそれを開いたリュックサックの口に入れようとしたとき、中身が目についた。
「それ、私の服!?」
レティの声で何を知られたか気がついたセリオは、しまったという顔でリュックサックを胸に抱き締めた。




