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見慣れぬものにはご用心5

凍らせた部屋から出て、男は歯軋りをした。


「弱ぇくせにっ」


乱暴な行いに抵抗敵わず怯えるのに、それが途中で止まると分かった途端、警戒心があっという間になくなった。

船から降りるように言ったとき、愕然とするか泣き出すと思っていた。

一瞬それが見え隠れしたのだが、何に奮い立たせられたのか強い決意が目に宿り、船は降りないときっぱり言い切った。


疑いをあまり知らないらしい心を傷つけるのは躊躇わせるような顔をして、力は弱くて脆くてすぐに泣きそうになる。それなのにたまに強く光る瞳。

予想外の行動ばかりで、主導権を握って力で攻めても、いつの間にかいなされてしまうような気さえする。


「苛めですか?マスター・ユリウス」


急に背後から高めの声がする。


「一般女性を部屋に連れ込んで凌辱した上、監禁するなど」


レースに縁取られた黒いフードを目深に被った長いパーカーに身を包んだ声の主は、ユリウスと呼ばれた派手な髪の男の腰に肩がやっと並ぶくらいの背丈をしている。

パーカーの下は膨らんだグレーの短パン。 黒いソックスに底の厚い紺のブーツ。

背中には、尖った翼のついたリュックサックを背負っている。


「俺の背後に立つなといつも言ってるだろ、セリオ」


ユリウスは悪魔のような格好をした少年、セリオに向き合った。

そして、奪って持っていたレティの服を放る。


「ただの女じゃねぇよ。あれはリチャードの船のクルーだ。あと何か勘違いしてるようだが、服を脱がせて逃げ道を絶っただけだ。それ以上無粋な真似はしてねぇ」

「ふぅん。良く連れ出せましたね」

「バカみたいにボケっとした女だからな。お前、その服預かっておけ。俺がいいと言うまで返すんじゃねぇぞ」

「分かりました」


それだけ言い、ユリウスは何処かへ行ってしまった。

セリオは服を丁寧に畳んでリュックサックの中に入れ、ユリウスの部屋の前に立った。

ガチガチに凍った入り口に触れる。







(ここを出るには、まず氷を削るしかないわ)


レティは部屋をうろうろして、道具を探した。

壁際の机の上に筆記具立てがあり、そこに大きめのカッターナイフが刺さっている。それを取った。


(いつまでかかるかわからないけど……)


ロックで刃を固定し、床に膝をついて取手に向かって地道に削った。

ポコポコ……。側で妙な音がするので足元に目を向けたら、下から泥が染み出してきていた。


「え?……えっ!?」


じわじわとゆっくり広がるそれに驚いて、思わず立ち上がって避ける。

ドロリとしたそれは、やがて上に伸びていく。

じっと見ていたら人を象り、黒い服を着た少年の姿になった。

フードが邪魔して、身長の差で上から見ているレティには顔が良く見えない。


「人……ですか?」


恐る恐る聞けば、顔が上がった。銀の髪にくりっとした赤い瞳。表情は固い。


「貴女がマスターの言ってた『バカみたいにボケっとした女』ですね?」

「……え?」


急に変なことを言われ、レティが目をしばたかせる。




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