見慣れぬものにはご用心4
その後に苦々しく舌打ちが聞こえ、目付きが一層鋭くなった。
「じゃあ、分からせるしかないな。帰れないようにしてやるよ」
「え?」
掴まれていた腕が引っ張られた。そのまま背中に手が回り、担ぎ上げられる。
「きゃ……?」
そのまま船内に連れていかれた。
「あの、降ろしていただけませんか?」
「自分の身も自分で守れない奴は黙ってろや」
「でも、あの、重いですし……」
「ふざけんな」
男の背中越しに聞こえる声に苛立ちが増す。
その後、一番奥の部屋の少し手前あたりのドアが荒々しく開かれる音がした。
蹴り上げたのかもしれない。
木の床を少し歩き、それからレティは乱暴に放り投げられた。
仰向けに落ちたのは柔らかい布団の上。
「エロ女と違って、お前なんか重くもなんともねぇんだよ」
起き上がる前にベッドのスプリングが軋み、名も知らぬ男の顔が真上に来る。
藍の二つの目に映る顔が険しくなった。
レティの右肩が押さえつけられ、上半身がより深くベッドに沈む。
「えと……?」
(エロ女……って?)
戸惑うレティの薄いピンクのブラウスに、大きな手が掛かった。
そして一気に開かれる。無視されたボタンが幾つか床に散らばる。
「きゃああっ!」
咄嗟に抵抗して男の片手を両手で掴んだのに、全く敵わない。
「やめ、止めてください!」
叫びも虚しくキャミソールが脱がされ、暴れる足からスカートも剥ぎ取られてしまった。
男の腕から細い手が離れ、胸と体を頼りなく隠す。
恥ずかしさに顔が真っ赤になり、瞳が潤んだ。
けれど、それ以上乱暴な行いはされなかった。
代わりに頭を少々荒っぽく撫でられ、藍を縁取っていた涙が引っ込む。
「分かっただろ。これ以上の酷い目に遭ったりしても、今のお前は傷つくしかできない。心ない野郎に盾にされたり、心を壊される前に出ろ」
そう言って、ブラウスとキャミソール、スカートを乱暴に拾って彼は離れた。レティは起き上がる。
「服……」
「近い島に着いたら返してやる」
「今返して頂くわけには……」
「それは聞いちゃやれねぇ。まあ、お前に今の格好で部屋を出て、この船のどっかにいる俺を見つけられたら、その前に返してやらんでもないがな」
それだけ言うと、彼は大股で歩いて部屋から出ていってしまった。
レティが慌ててベッドから降りて追う。しかし、ドアに触れる前に声がした。
「ドアから離れろ」
咄嗟に飛び退く。パキパキ……パキン!ドアが氷に包まれて開けられなくなってしまった。




