見慣れぬものにはご用心2
警告音で船内にいたクルー、リック、ディノスが甲板に集まる。
慌てたクルーから話を聞けば、突如現れた巨大な白い狼にレティが連れていかれてしまったとのこと。
即座に反応したのはユーシュテで、クルーの襟を掴んでガクガク揺すりながら凄んだ。
「アンタねぇっ!仮にも海賊なら、対処しなさいよ!」
「すみません。驚いて呆気にとられてしまって」
「はぁあ!?」
既に怒られているので、リックやディノスは彼を責めなかった。それよりも気になったのは。
「妙な気配は感じなかったが……」
「ああ」
リックはディノスの言葉に頷いた。
先日の植物騒ぎの時もそうだったが、広い船内とはいえ、悪意を持って船員を傷つける可能性のある生物や敵が入り込めば、少なくともリックとディノスには感じ取れるのだ。
それがなかった。
「レティを誘拐したのは何が目的だ……?」
軽く握った手を顎にあて、少し考える。
「一人で連れてかれて、レティがどれだけ怖い思いすると思ってんのよ!」
まだガミガミ言ってるユーシュテに、クルーが言う。
「ユーシュテさん、それがっすね。レティアーナちゃんは全然怖がってなくて。あれー、何だろう?って感じのぽかんとした顔してました」
それを聞いた全員が、呆れた笑いを浮かべた。容易にその様子を思い描けたからだ。
「もーっ!あの子は!わーとかキャーとか悲鳴くらい上げなさいよ!見てる方も出遅れるじゃない!」
ユーシュテはクルーを放し、拳を握りしめて、空に向かって叫んだ。
「んん、いったぁー……」
床に手をついて、レティは起き上がる。
巨大な狼が側に座り、空を向いて遠吠えをした。すると。
ダンッ!何処にいたのか、上から誰かが飛んで甲板に着地した。
夕陽のようなオレンジ色の派手な短い髪。
即座に立ち上がって見えた顔には、つり目に嵌まった真っ黒な瞳。
七分袖の白いシャツの上に緑色で短めのベスト。
黒いジーンズの腰には赤と黒のストライプの布がお洒落に巻かれていて、そこに金のドクロが留められている。
「誰だ、てめぇは……」
腰に手を当て、上から覗き込むようにして低い声で尋ねられる。開いた口からちらりと八重歯が見えた。
レティは慌てて膝に手をのせて背中を伸ばした。
「あっ、私はレティアーナと言います。えと、……こんにちは?」
「――こんにちは」
怖い声だったので緊張していたのに、意外にも挨拶を返された。
「久々にあの船を見つけたと思ったら、お前は見ない顔だし。女だし。一体何だ?」
オレンジの彼が狼を撫でたら、狼は雪になって右肩に吸い込まれた。レティの顔が明るくなる。
「さっきの子の契約者様だったんですねっ」
「ああ、そうなんだよ。って、ちがぁーう!」
両手を拳にして腕を広げ、足を蟹股にして彼が叫んだ。
そして、片方の膝をついてレティの顔にズイッと近づく。




