眠りの国の歌姫さん5
リックに寄り添ってレティは目を閉じる。
(私もリック様の支えになれてれば……いいな)
「……」
そのまま動かないので、リックはレティを見た。
レティは幸せそうな顔をしたまま、ゆっくり呼吸をして……。
(寝た……?)
肩から腰に手を移動させ、浮力でいつもより軽くなった体を膝に乗せる。
「レティ、こんなところで寝たら逆上せるぞ」
「ん……?」
何とか意識を保とうと、レティが目を擦る。
「起きてください、姫」
軽くキスを送り、レティを横抱きにして湯船から出た。
新たなバスタオルで体を拭き、いつも以上にゆっくりして着替えは何とか終わった。
動きの鈍いレティに代わってリックが片付けをしている間、レティは棚に立って寄りかかり、うつらうつらしていた。
レティの背中に腕を回したら、いつもと違って眠さが勝って恥ずかしがることもなく、大人しく抱かれてリックの肩にもたれて寝息を立て始めた。
「ちょっ、何あれ!」
「ん?」
ユーシュテがディノスの袖を引っ張って入り口を示した。
少し遅れ気味に食堂へ姿を見せたリックの腕にレティが寝たまま抱えられていたので、ユーシュテ達だけでなく、目撃したクルーが驚いていた。
食事の間は半分寝ながら半分起きている状態。
「レティ、ほら口開けて」
リックの膝に座って声をかけると口を開けて食べ、また寝てと言う状態だった。
その日はいつもなら元気に船内を移動するレティの姿はなく、代わりにずっとリックと一緒だった。
リックがどこに呼ばれていても腕の中でスヤスヤと寝ていて、まるで眠り姫のよう。
時折リックがレティの頭にキスしたり髪を撫でたりするときの顔がとても穏やかで、二人を見守る周りまで優しい気持ちになっていた。
寄せあった体から伝わる鼓動と温かさ、匂い。リックが移動するときの揺れ。
全てが疲れきったレティの眠りを誘った。
「リチャードさん、連れて回るの大変でしょう?ベッドに寝かせておいた方がいいんじゃ」
あるクルーが小さな声で言ったら、リックはこう答えた。
「寝る前に一緒にいたから、目を覚ましたときに俺の姿が見えないと不安がるんだ」
リックが乱れてきたふわふわの髪に手櫛を入れていたら、少しだけレティが笑って呟いた。
「リ……ク様……」
その眠りは疲労した体にとってあまりにも心地よすぎて、レティが小さな口から欠伸を出しながら起きたのは、四時に差し掛かる前だった。
その後、ずっと自分を抱いたまま寝かせてくれたリックに、顔を赤くしながら謝るレティの姿があって。
見かけた仲間達が笑いながら微笑ましく二人を見守っていた。
【溺愛の章】 終わり




