眠りの国の歌姫さん4
体の両脇に手を付かれ、逃げ道を消されてしまう。
「レティ……?」
「んっ!」
唇を小さな耳に近づけて名前を囁いたら、レティが目を閉じて肩をピクッと跳ねさせた。
二人の間には互いへの愛しさしかない。
何度好きだ愛してるを口にしたって物足りない。一秒ごとに存在が心を震わせる。
問いに答える代わり、それから体を見ないで済むように、レティがリックの肩に腕を乗せて体を寄せてきた。
「意地悪が過ぎたか?」
濡れた手で頭を撫でたら、レティが頭を振った。
体を寄せたままじっとしていると、レティがリックを見上げた。
「リック様、お聞きしたいことがあります」
「何だ?」
「どうしてリック様は鳳凰様なんですか?契約って……?」
ずっと、分からないままだったこと。
「そういや話したことなかったな……」
上を見てリックは言った。それからレティの隣に腰を落ち着けて話始めた。
「契約ってのは、自分の最も大切な部分を大いなる力を持った生物に預けることだ。預けるって言っても共有する感じだな。そこが召喚の時の入り口になる。だからレティも見たとは思うが、俺とアルでは預けた部分が違う」
「アル様は胸でしたね」
「あいつの場合、何かを守りたいと言う気持ちとか心だったんだろ。王子だし、立場上そうなるわな」
「でしたらリック様は?」
「鳳凰が現れたとき、俺はまだ知り得ぬ世界をこの目で見ることが大事だった。だから目なんだ。今だったらまた違ったかもな」
今はたくさんの仲間がいて、そして手放したくない人もできた。
アルのように守るべきものが多くなったから。
レティを見たら目が合って、にこっと笑ってくれた。
「何故鳳凰かと言うことについてはいまいち分からん。ただ分かるのは、生物が現れるときは契約者の心に反応しているのと、その内面的強さによって階級が違うと言うことだ」
「階級ですか?」
「ああ。特級、上級、中級、並級……これは下級と呼ばれることがあるが……。要は、元々の力の強さと稀有さの違いだ。ただ、契約者の心の強さでも変わるし、実際は戦ってみないと何とも言えんな」
「リック様のは……」
「特級だ。伝承で語られるような生物は、ほぼ特級に当てられる」
「リック様はやっぱりお強いんですね」
レティがリックの腕にもたれてきたので、細い肩に腕を回した。
「そんなこともないけどな」
預かるもの、守るものが増えた今。
守りきるために強く立ち続ける自分がいる反面、裏を返せば弱味にもなっている。
そこに入り込まれて傷つけられたり奪われかけたら、揺らぎそうになる。
特に今、自分が抱き寄せているその存在。
レティこそが、リックの最大の強味であり弱点だ。
実際に、もう何度もいつもの自分を失い掛けたことがある。
「俺だって普通の人間だからな」
「んー……。じゃあリック様がピンチの時は、私がリック様をお守りしますね!」
両手を拳にして、『よしっ』と言うように動かしてリックを見たレティ。
可愛い姿に思わず表情を緩め、そんなレティの肩を抱き寄せた。
「サンキュ。期待しとくよ。でもまあ、普段はレティが側にいてくれれば、強くいられるから大丈夫だ」
「そうなんですか?」
「レティは今のレティのままでいてくれれば十分だ」




