秘密の夜2
レティが恐る恐る顔をあげたら、鋭い狼のような視線に貫かれて息を飲んだ。
優しさよりも真剣な鋭さが出ているのに、どうしようもなく心がドキドキと高鳴って痺れた。
「リック……様っ……」
レティはリックにすがり付くように、Tシャツを握りしめた。
「レティ、俺に全てをくれ……。愛してる」
背中に腕が回り、ベッドに倒された。
足からスリッパが脱がされて足もベッドに乗ると、一度リックは離れて枕元のスタンドの明かりを点け、部屋の明かりを切った。
戻ってきて布団を払い、レティの体を抱えて頭をきちんと枕に乗せてくれる。
「怖いか?」
「……ほんの少し、だけ……」
「そうか……」
リックは軽くレティの唇を合わせて、それからは頭を撫でたり腕をゆっくり擦ったりして、抱き締めるだけに留めてくれた。
「深呼吸して」
言われたことを何度か繰り返し、息を吐き出したときに額から頬、鼻先とたくさんのキスを落とした。
それから唇を暫く触れ合わせた後に、ふわふわの髪を払って首筋に顔を埋めた。
慈しむような声と手。全身をやさしく愛でてくれる彼。レティができるだけ怖くないように。
未知の世界に足を踏み入れるのは、誰だってそれなりの勇気がいるものだ。
それなのにレティはいつも、リックのわがままに微笑んで付き合ってくれるのだ。
僅かな休憩をはさみながら進める。
翻弄され、恥ずかしさを含んで早くも生理的な涙が藍の瞳を縁取り、長い睫毛を濡らしている。
目の下も頬も赤く染まり、自分でも初めて経験する自分自身に対し、酷く戸惑っていのがわかる。
それでも藍の色は優しさと甘えの両方を含めた眼差しで、愛しさを溢れさせる。
「リック様……」
「ん?」
「リック様、世界で一番……大好き……ですよ?」
枕の上で小首を傾げ、息を吐き出しながら小さな声で言われる。
甘くうねった波に、心を鷲掴みにされたような気がした。
(ああ、もうこの子は……)
ただ欲を満たすのとはわけが違う。リックだって今まで経験したことがない。
本当に愛してやまない相手と、気持ちを溶かして合わせたいと思うのは。
好きだ、愛してるなんて言葉では足りない。
リックの指先から、あふれるほどの愛情がレティへ伝わってくるのだが、同時に恐怖ものしかかってくる。
それでもリックの腕から逃げることはできない。
逃げを与える狼の元に飛び込んだのは、自分なのだから。
後悔はないけど、いつまでも羞恥と恐怖が付き纏って離れない。押し潰されそうだった。
リックは優しく微笑み、レティの上半身を一度起こした。
自分も上半身のTシャツを脱ぎ捨てていて、レティの固く緊張する体を宥めるように抱き締めながら背中を擦る。
「大丈夫だ、レティ……」
隠すための手の隙間から覗いている唇に、自分のそれを重ね合わせた。
唇を離して自分の肩にレティの頭を押し付けたら、案の定肌に涙が散った。




