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秘密の夜

だけどその想いに身を任せてぶつけたら、今のレティでは受け止めきれずに傷ついてしまうだろう。

愛しているが、泣かせたり傷つけたりしたいわけではないのだ。

覆い被さって抱き締め、深呼吸を繰り返して自制をする。

体温が心地良いのか、レティは目を閉じてリックの首に手を回してくる。

レティの肩に下から手を回し、少し仰け反るように露になった白い喉に軽く唇を這わせたら、藍色の目が開いた。

その後に首に掴まっていた腕が離れ、リックの肩に手を置いて顔を背けた。


「待ってください。リック様……っ。お風呂に入る前だから……」

「大丈夫だ」

「よ、良くないですっ。昼間汗もたくさんかきましたし……」


真っ赤になりながらあまりに必死に言うものだから、少し可笑しい気もしてレティから離れた。

汗どころか、染み付いているのは甘ったるいお菓子の匂いなのだが。


(こういう所が気になるのは、やはり女の子だな)


「分かった分かった」


リックは折れて起き上がった。


「お風呂に入ったら、また戻ってきますね?」


足をサンダルに入れながら、レティは立ち上がる。

離れる前にリックは手を掴んで引き寄せた。


「いいか、レティ。よく考えて戻ってこい。今日もう一度ここに戻ってきたら、出してやれない。怖いなら逃げて良い。それくらいで嫌いになったりしないから。それでも良いなら戻ってきてくれ」

「っあ。……はい」


自分を見つめるグレーの瞳の奥に、何かが潜んでいる気がした。

彼の言う通り、戻ってきたらその鋭い光に貫かれてここを出ることは出来ないと言うのは、冗談などではないと分かった。

それでも逃げ道を作ってくれるのは、やはりリックなりの優しさに他ならない。

レティは頷き、リックの手からすり抜けるように離れて部屋を後にした。


(胸が今までになくドキドキする。戻ってはいけない気がするのに、何となくそこに踏み込んでしまいたいような……。リック様……)


部屋に戻ってスリッパに履き替え、夜着と風呂の道具を持って大浴場に向かった。






約四十分後、風呂の道具を片付けて髪をドライヤーで乾かし、部屋を出た。

リックの部屋の前で少しうろうろしたまま、意を決して部屋のドアを開ける。

すると、誰もいない。

そういえば、いつも先にかかるはずの彼の声がしなかった。


「あれ……?」


拍子抜けして部屋に入り、隣の書庫を開けるが暗いままでリックは不在なのだとわかる。

ベッドに腰をかけて待つことにした。

十分ほど経ってドアが開き、タオルで髪を拭きながらリックが入ってきた。

リックも入れ違いで風呂に入ってきたのだろう。


(リック様、いつも朝に入られるのに……)


「待たせた」

「いいえ……」


ドキドキし過ぎて、まともに顔を見ることができない。

胸に手を当てたら、リックが隣に座ってスプリングが沈む。


「考え、逃げる時間は十分すぎるくらい与えたからな」


肩を引き寄せられ、耳元で低い声がする。


「約束通り、もう離さない」


(リック様が今お風呂に入られたのは、それも引き返す時間を与える最後のチャンスだったんだ……)



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