HAPPY BIRTHDAY7
「あとはシャッターセットするだけ」
「私が押しますよ?」
ジャンは体格が良いので、後ろまで回らなければならない。
その点、レティはリックと正面なので距離的に短い。
(いや、それは)
(やめといた方がいいんじゃ……)
(盛大なフラグだろ)
クルー達の内心に気づかないジャンは、レティに任せた。
「じゃあ、頼むよお嬢ちゃん。この大きなボタンを軽く押すだけだからね。押したら十秒後にシャッターが下りるよ」
「はい」
ジャンが位置についたのを見て、レティは声をかけた。
「皆さん、行きます!」
ポチっとボタンを押してレティが走ったが、何に滑ったのか躓いたのかレティの体が前のめりになった。
「きゃっ!」
気づいたリックが飛び出して、転ぶ前にレティを受け止めた。
「どわー!」
驚いたクルーが体勢を崩し、何人かが雪崩になる。そこでシャッターが下りてしまった。
ハプニングの瞬間を収められて、また船上に爆笑が起こった。
気を取り直してカメラをセットし直し、レティが再度押して今度はリックの元へ無事に戻る。
「三、二……一たす一は?」
「にぃ――!」
パシャッ!全員夕日に照らされた良い笑顔の写真が撮れた。
ジャンが切り分けて皿に乗せたケーキを、ユーシュテやレティがクルーに手渡す。
一番良い部分は最初に皿に盛ってあって、チョコレートのメッセージと共にキープされている。
ケーキがなくなり、レティはそれを持ってリックの元へ言った。
「リック様、ケーキは好きですか?」
「ああ。そういえば、知ってるか?うちの船のやつは甘いもの好きが多いんだ」
「そうみたいですね!」
レティがケーキをフォークに乗せてリックの口元へ差し出すと、躊躇なくそれを口に入れてくれた。
少し遠くにいるユーシュテは、ディノスから食べさせてもらっている。
同じことをしているなぁと笑っていたら、リックがレティの肩を抱き寄せて言った。
「ケーキを作ってたから、今日はなかなか姿を見せなかったのか」
「はい。他にも外の飾り付けもお手伝いしました」
嬉しそうなレティの頭を指先で擽る。
「たまには俺にも会いに来てほしかったぞ?」
「寂しかったですか?」
「どうかな?」
ニヤリと笑われ、レティの方が何故か恥ずかしくなってしまう。
「レティ」
リックが呼んで、チョコを割って摘まんで差し出した。
手で取って食べようとしたら、手を高く上げられてしまう。
「手が汚れるからダメだ」
このパターンはまた……。この間の風邪の時とは違い、今は人前だ。
困って唇を尖らせるレティの口にツンツンと押し付けてくるので、口を開けてチョコレートを食べた。
そうしてリックと二人でチョコレートを食べてしまったとき、レティはリックの手首を掴んだ。
(仕返しなのですっ)




