HAPPY BIRTHDAY5
ユーシュテがテーブルに座ってクッキーを頬張っている間、レティは厨房に入った。
クッキーの生地の残りにチョコチップを練り込んで伸ばし、型抜きをしてオーブンへ入れる。
「後はやっておくから、お嬢ちゃんたちは外の奴らの手伝いをしてやっておくれ」
「はい。ジャン様ありがとうございます」
「もぐもぐもごもご……」
最後のクッキーの一欠片を口に入れたユーシュテを手に乗せ、外に出る。
ちょうど入れ違いにクルーが食堂の中に入ってきて、長テーブルを外に運び出した。
「レティ、テーブルクロスを拭きましょう!」
ユーシュテが大きくなり、食堂に戻って布巾を取ってきた。
二人で長いテーブルを拭いて回る。
「レティアーナちゃん、エプロン似合うね!」
「可愛いよ」
何人もクルーが声をかけてくれ、お礼を返しながら彼らの手伝いをする。
無骨な男たちが集まり、紙で作った輪を繋げて壁を飾ったりしている様子は余りに不似合いで、失礼ながら途中で吹き出してしまった。
五時になり、シェフたちが鍋や銀のトレーに乗った料理を、クルーは酒蔵からワインやビールやその他のアルコールを運び出してきた。
「レティ!リチャードを呼んできてちょうだい!」
「はーい」
「あああ!ちょっと待った!エプロンは脱いでいくのよ」
そのままレティが船内に入ろうとしたものだから、ユーシュテが慌ててエプロンを脱がせて預かった。
レティは走ってリックの部屋へ向かう。
階段を降りて大きなドアをコンコンとノックしたら、中から声が聞こえた。
「入っていいぞ、レティ」
入る前から分かってしまうのは相変わらずで、さすがだと思う。
「リック様!お迎えに上がりました」
中に入ったら、ディノスもそこにいた。
彼は足止めの役割をしていたらしい。コーヒーを飲みながら、雑談をしていたようだ。
「時間だな」
ディノスは言って立ち上がる。トレーにティーカップを乗せ始めた。
「俺はカップを片付けてから行く。二人は先に行ってくれ」
「はい」
レティはリックの側に立ち、両手を差し出す。リックは笑って立ち上がった。
「レティ、お菓子の甘い匂いがするな」
一度抱き寄せて、リックはレティの香りを楽しんだ。
「そうですか?」
「とてもな。じゃあ、……行こうか?」
放されたのでリックの手を握り、早く来てほしくて引っ張るようにレティは歩いた。
「そんなに急がなくても逃げないぞ?」
「早く見て欲しいんですっ」
ピクニックに行く子どものような顔をしているレティを、リックは脱力した笑顔で見守る。
そして甲板へと続くドアを開けて二人が外へ出た途端、パンパンと軽い音がたくさん鳴った。




