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操り人形(マリオネット)の歌姫7

そんな時、歌が聞こえてきた。


「!」


鼻歌ではあるが、声は紛れもなくレティのもの。ただ、曲はジムノペディではないようだ。

広場まで行き、どこから聞こえてくるのかと視線を前後左右に廻らせる。

やがて、一件の店の扉が開き、レティが出てくる。

ウェスタン調なそれは、あの島のジョアンの店を思い出させた。

店の看板や外の立て札から、少し洒落たバーらしいと分かる。

何か茶色の紙袋を両手で抱え、リックには気づかずに鼻歌を続けて歩き始めた。


「レティ!」


思わず大きな声で呼んでしまって、レティが気づいて此方を向く。

彼女が自分の名前を呼ぶ前に、リックは走ってレティを抱きしめた。

勢いが良すぎたのか、レティが踏みとどまれずに尻餅をついてしまった。


「リック様?」


それでも膝をついて抱き締め続けるリックに、レティは戸惑う。


「どうしたんですか?」

「急にいなくなったから」

「お買い物をしていたんです。最初はリック様についてきて頂いてお好みを聞こうとしたんですけど、それじゃ驚かせられないと思って」

「え?」


漸くリックはレティを放し、肩に手を置いた。

酒場の近くにいたので、そこから日付が変わったことを知らせる壁掛け時計の音が聞こえてきた。


「十二時過ぎちゃいましたね」


レティは紙袋を開けて、中から小さめのブルーの酒瓶を取り出した。

透明なビニールに包まれており、上は赤いリボンで口を締められてている。


「今日は素敵な記念日です。リック様、お誕生日おめでとうございます!」


ふわりと笑ってレティは言った。


「あちらのバーのマスターにお願いしたんです。普通は持ち帰りの販売はされていないらしいのですが、事情をお話ししまして、今回特別に」

「何だ……そうか。俺はてっきり」


(骨折り損……、と言うより一人相撲か)


「今日はリック様の記念の日なのに、出ていったりしません」


伏し目がちに言うレティの顔を見て、リックは眉を潜めた。


「その言い方だと、今日が終わったらいなくなるみたいだな」

「……」


レティは俯いてしまった。


(やっぱりリック様には分かってしまうみたい)


「私、何もできないのに、このままだと皆さんを傷つけてしまう気がして。私、あの船が好きです。私だって皆さんを危険にさらしたくないんです。島の人達が言うように、私は災難を呼び込んでしまうのかもしれません」


みっともなく泣き出したりしないように、レティは唇を噛み締めた。




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