操り人形(マリオネット)の歌姫4
血の代わりに黄色の甘い匂いの液体を飛び散らせながら苦しみ、花は萎れた。
押さえられていたレティとユーシュテは、意識を失って大人しくなった。
二人を操っていたように見えた女もその場に倒れる。
緑の海になっていた蔦が消え始め、閉じ込められていた実が割れて町娘が落下し始める。
慌てたクルー達がわーわー言いながら、彼女達を受け止めた。
リックは倒れた少女を片手で抱く。
花が消え、霧のように散った瞬間、リックの頭に映像が流れ込んだ。
毎日如雨露を片手に植木鉢に水をやる少女。笑顔で鼻唄を歌いながら。
「早く大きくなってね」
それが終わると、いつも少女は学校に行く。
(君ともっと一緒にいたい。一緒にいろんなものを見たい)
小さくなる背中を見守る鉢の中の植物が風にそよいだ。
日は過ぎて、異常に大きく成長した植物が鉢植えには狭くなったとき、それでも少女は嬉しそうに笑った。
植物は少女を喜ばせるため、一気に蕾を出して花を開かせた。
『ねぇ、契約……しよ?』
彼女は急に話し始めた植物に驚いた。
「何でしゃべるの?それに契約って何!?」
『ずっと一緒にいるんだ。君には僕の力を貸してあげる』
「今のままでも毎日一緒じゃない」
『それじゃ、寂しいんだよっ』
蔓が伸びて彼女に絡み付く。
『契約を……』
「いやああっ!放して!」
植木鉢の下に紋様が広がる。少女の顔が恐怖に歪んだ。
『どうして嫌がるの?一緒にいたいだけなのに……。僕と一緒にいて!』
捉えられた少女の体中を魔法陣と同じ紋様が移り、刺青のようになったと思ったら吸い込まれて消えていった。
(僕は君を捕まえた。けど寂しさは満たされない。あの日から君は、僕に声をかけてくれなくなった。心からの声を)
契約は失敗した。
寄生して操られた彼女は笑って話しかけてくれるものの、それは前とは違うものだった。
寂しさは募り、彼女も寂しくなければ良いのかと美味な果実のように化け、実を探しに来た町娘を捉えて閉じこめた。
(どれだけ誰かを取り込んでもだめなんだ。どうしたらいいの?どうすれば良かった……?)
その想いを最後に、レティ達の体の糸は透明になって消え、リックのいた蔓の床は緑の霧になって散っていった。
リックは少女を抱えたまま下に落ち、甲板に着地する。
後に転がったのは小さな植木鉢から顔を出した小さな苗だけ。
それを拾ってリックは言う。
「心は無理矢理手に入れられない。動かしたり奪おうとするんじゃなく、通わせるんだ」




