忌まれる美しき歌声の理由(わけ)3
朝から小さな島の住民が集まり、大騒ぎしていた。若い女性が難破してきたと。
漁船よりも遥かに粗末な船。確かに傷んで縁は欠けている。
丁度、誰かが呼んだ医者と共に集まる人が、フード付のぼろ布を被った女性を船から降ろしている所だった。
仰向けにされた体から、フードが落ちた。その顔を見た人々が更に騒ぎ出す。
同じ島の出身の女が幸せに出ていったはずなのに、こんな姿で帰ってきたなんて。
ざわめきに気がついたのか、彼女の目が少し開く。
「どう、か、あの……子を……」
母親は視線で船を示した。
そこに四、五歳くらいの少女が船底に丸まって、厳しい航海のことなど知らぬようにスヤスヤと眠っていた。
発見時の母親の体勢から、母親の体の下で守られて寝ていたのだろう。
「ま、守っ……。友……人の……ジョア……ンに伝え、て下さ……っ」
「わかった」
医者が頷いて答えたのを見て、安心したのかレティの母の意識がなくなった。
衰弱していたらしく、しばらく街の診療所にいたが数日後に亡くなってしまった。
ジョアンは探されたがすぐに見つからず、愛らしい少女は里親が見つかるまで泊まり歩く形で毎日違う街の家を転々とした。
レティが漂着して二週間後、彼女の歌に悲劇が降りかかった。
母親のことを上手く理解できないレティは、いつもの様に海辺で歌を歌っていた。
その日泊まる家の人が、海岸で遊ぶレティを迎えに来る流れになっていた。
そして夕方、同じようにレティを迎えて連れていった。
ある夜、平和な島に砲弾が撃ち込まれた。
海賊が来たのだ。凶悪な一団が島の人々や家を蹴散らし、炎で包んだ。
元々珍しいものもなく、週に一度、商船が来るくらいの平和な場所だ。
海賊が目をつけるはずもなかった。だから、対策などあるはずもなく。一方的に傷つけられた。
何故?どうして今回に限り、奇襲を受ける?ここで何を得る?
そんな彼らの疑問を答えたのが、その海賊の船長だった。
「ここに歌を歌う女がいるはずだ」と。
聞いたことのない美声。売れば高いと思ったのだ。
街で歌うのは、水商売の店の女歌手と……あとレティだ。
まさか子どもがその対象であるはずがない。誰もがレティだとは思わなかった。
その夜、島から女歌手が全員連れていかれた。
尊い命ばかりか金品や僅かな食料品も奪われ、大きな傷痕を残した。
明け方近くに島はようやく悪賊から解放された。
レティは町長の家の地下室に、町長の妻子やメイドと共に匿われていて無事だった。
幼いレティは外で何が起きたのか、何故ここにいて他の者が怯えるのか分からなかった。




