操り人形(マリオネット)の歌姫3
『もー、手間とらせないでよね!』
レティの閉じられた瞳が再び開いた時、それは虚ろに霞んでいた。
『いぇーい!あいつらをやっちゃってー!』
女がはしゃいで、レティとユーシュテが飛び出した。
リックが気づいて再び風の壁で船員を守ったが、レティは瞬時に透ける金の翼を出し、それを飛び越えた。
『あの子飛べるの?すっごーい。見直しちゃったかも』
リックは蔓を切り裂き、格闘技の使えないはずのレティが繰り出した拳と船員の間に戻って、素早く割り込んだ。小さな手を握って止める。
ズン!ビリビリビリ……。
(これ、本当にレティの力か……?)
どこからこんな力が出るのかという重さで、レティはリックを押してきた。
「……っ!」
リックの眉間が寄って険しくなる。
レティは一度後ろに飛び退いて、それから片足を蹴りあげてきた。
それを体をずらして脇に挟み、足を抱え込む。
次の一手にレティが再び拳を突き出そうとした瞬間、両脇から太い腕が入り込んだ。
下から腰にもガッシリ回った腕に掴まれ、レティの動きが固定された。
「お嬢ちゃん。おイタはだめだよ?」
ジャンだった。レティはうーうーと唸りながら身を捩って逃げ出そうとするが、敵わない。
ユーシュテはディノスが両手首を掴み、動きを封じたあとに押し倒して更に体を抑え込まれていた。
「うちのお嬢ちゃん二人くらい、傷つけないで止めておきますよ。だから船長は本体を叩いてください」
「頼む」
リックは暴れるレティの頭にポンと手を一度おいて離れた。
そして再び緑の海に走る。女が何かを叫んで蔓がリックを追いかける。
それを利用して足場としてポンポンと跳び上がり、上へ進んだ。
上の方に辿り着き、広がった蔦の床なようなそこに髪を二つに結わえた、十歳くらいの少女がいた。
袖の膨らんだ白地に赤いチェック模様のワンピースを着た裸足の彼女の向こうに、巨大な花がある。
花は閉じたり咲いたりをゆっくりとした一定のリズムで繰り返している。
その中心は実などではなく、カパッと開けてギザギザの歯を付けた口だった。
「お前か」
少女を見てリックは呟く。
「お兄ちゃん、よくここが分かったね」
「上の方から気配と視線を感じてた」
「へーえ。すごい」
パチ、パチとゆっくり手を叩く彼女は焦点の合わない目をしていて、正気ではないことが分かる。
「この植物をどこで見つけた?」
「森で。割れた実の中に種を見つけたの。拾って大事に育ててたんだぁ。可愛いでしょ」
「そうだな……。可愛いかは分からないが、大きく育ったな」
「うん」
リックは笑う少女の肩に手を乗せた。
「折角育てたのにすまんな……」
彼女の横を通りすぎ、剣を突き出して花の口を突き刺した。
少女がバタリと倒れて花が暴れ、獣のような気持ちの悪い悲鳴を上げた。
「彼女はお前を育ててくれてたんだろう。もう寄生するのはやめろ」




