操り人形(マリオネット)の歌姫
「船長?」
リックの制止を聞き、戸惑いながらもクルーが足を止める。
『そうそう。それが利口よね。さ、今度は此方からよ。やっちゃってぇ!』
「だめ、ユースちゃん!」
ユーシュテの目の色が赤く光ったことに気がついたレティが、手を伸ばして一瞬袖を掴みかけるが、すぐに手から離れてしまった。
操り人形のように背中に糸を着けたまま、驚くほどの速さでユーシュテが短剣を振り、クルーに襲いかかってきた。
リックが手を振り、クルーとユーシュテの間に風の壁を作る。
阻まれて、ユーシュテは後ろに回転しながらそれを避けた。
『良いこと?わたしを襲うなら彼女と戦ってもらうか、もしくはプスッて刺しちゃうから』
棒立ちをしているユーシュテの周りに、針のように鋭く尖った糸が何本も近づく。
「きたねぇっ!人質か!」
「お前ら、あの女を攻撃するんじゃない!」
苦々しく悪態をつくクルーにリックが言った。
「だけど船長!あの女を倒さないと二人が……」
「落ち着け。あの女も操られてるんだ。罪はない。取り込まれた町娘の一人か何かだろう。背中に糸がついてるだろ」
リックが説明をする。確かに背中だけでなく、女の体が光ったように見え、糸のようなものが絡まっている。まるで操り人形だ。
「あの町娘を仮に消しても、恐らくまた別の盾となる器の体が出されるだけだ」
「そうしたら、どうしたら良いんですか?」
焦ったクルーと逆に、冷静な声が割って入った。
「あれは契約の生物か?契約者の気配を感じないが」
「恐らくな。だが、契約はおそらくされていない。どちらかと言えば……」
ディノスの質問に対して曖昧に答え、リックは緑の海を見つめた。
罪無き者を襲撃するほど、リック達は悪どくない。
操られた女はユーシュテの頬を指でつついて遊んでいる。
それから、何かを思い付いたように手をパンと合わせた。
『良いこと思いついちゃったっ』
ユーシュテに背を向けて、レティに向き直る。
『お人形遊びするの。あの美人な子はちょっと攻撃的だから、いじめっ子よね。貴女はどちらかと言えば泣かされっ子って感じ』
「な、何……?」
レティは戸惑って女を見た。嬉々とした女がユーシュテからレティに指先を向けた。
『美人なお人形ちゃん、彼女を苛めちゃってー』
無言のユーシュテがレティに向かって足を進める。
「やめて。やめてお願い、ユースちゃん……っ」
レティは嫌々と頭を振るが、ユーシュテが認識できるわけがない。
虚ろな目に睨まれ、レティは怯む。
鮮やかな色に彩られた形のよい爪を乗せた指が、レティに向かって伸びた。
「あっ、いやっ」
レティは目を閉じて顔を背けた。すると昼間のように左の胸を力任せに掴まれた。
「痛い、痛い!放して、ユースちゃん」
悲鳴を上げ、力が弱まる。
そして手のひらと指先全てを使って、やわやわと揉みしだきはじめた。
「ひっ!」
レティの顔が真っ赤に染まる。
昼間のは鷲掴みにされたとはいえ、サイズを確かめるくらいのものだった。
それなのに今のユーシュテの手と来たら、マッサージをするように念入りに揉み上げてくる。
ユーシュテとレティの間の行いを目にしたリックやディノスは勿論、クルー全員が唖然として固まった。




