まさかのケンカ勃発!?9
『だぁーめぇーっ!女の子はあげないのっ!』
女性が両手の拳を上に向け、叫ぶ。
「うわわっ!きゃーっ!」
声に従い糸が伸び、レティがかなり高い位置に持ち上げられた。
『若い女の子はわたしと一緒に生きるの……。うふっ』
植物らしく、女性の背中からたくさんの蔓が伸びた。
船を緑が侵食し、蔓が絡み合った主柱が現れる。
そこからたくさんの光る花が生えて咲き、開いた花びらの中心の殻のある実が見えた。
その実が透けて、中に膝を抱えるように丸まった若い娘が何人も閉じ込められていた。
「ひっ……」
レティの顔が青ざめる。
『みんなわたしのコレクション。わたしのお人形よ。貴女達二人も仲間に入れてあげる』
「お断りよ」
ディノスに身を寄せていたユーシュテが、振り返って睨む。
「ここは海賊船よ。大人しいそこらの町娘たちと違って、あたしたち海賊は他人の言うことなんか聞かないわ!」
ユーシュテは落ちていた短剣を蹴り上げ、手に収める。
『そんなの、そんなの……許さないんだからぁっ!』
女性は子どものように足を広げ、両の拳を胸の前で握りしめた。
再び糸と、今度は蔓も一緒にディノスとユーシュテに襲いかかる。
ユーシュテもディノスも武器を構えたが、正面に来た蔓はリックが剣で押し留めた。
剣に力を込め、背後の二人に指示を出す。
「散れ!固まっていると一気に襲われるぞ!」
蔓は太さがある分、動きが鈍い。反対に糸が早かった。
ユーシュテは刃で糸を切り裂き、ディノスは銃弾を飛ばして糸を切る。
船員たちも武器で斬ったり、ジャンはハンマーで逸らしたりした。
「やああっ!」
ユーシュテが糸の合間を縫って走り、床を蹴って短剣を握りしめて飛び込む。
『やめてぇっ!』
頭を抱えた女性の叫びで、上にいたレティの体が糸の動きと共にガクンと動いた。
「!」
ユーシュテは急に足を留まらせた。
短剣が盾のように現れたレティと二センチ程の距離で止まる。女性は頭を抱えたまま、口角を上げて舌を出した。
『隙有りねっ』
ドスッ……。
「あ、かは……っ」
上から猛スピードで回り込んだ糸が、ユーシュテの背中を針のようにつき刺した。
茶色の目が見開かれ、彼女のしなやかな背中がのけ反る。
「ユースっっ!」
「ユーシュテ!」
「ユースちゃんっ!」
目撃した三人が同時に声を上げた。
ユーシュテは膝から崩れて頭を垂れ、床にペタンと座り込んだ。
『あはっ!大事なお友だちを守ったのが仇になっちゃったねー。うふふふ、あはははっ』
指先を唇に乗せ、高らかな笑い声が響く。
『貴女はもうわたしの虜。言うことを聞く可愛いお人形よ』
「何っ!?」
珍しくディノスが驚きの声を上げる。
『立って』
女性の言う通りに、ユーシュテは項垂れたままゆらゆらと立ち上がった。
『とっても良い子ね……』
そんなユーシュテの頬に、女性が唇を寄せた。
「――さっきからっ。黙って聞いてりゃ、ユーシュテさんやレティアーナちゃんに何してんだ!」
「二人は人形じゃねぇよっ!」
「放せーっ!」
我慢の限界を越えたクルー達が剣を取り出して構え、緑の海に向かって突っ込んできた。
「よせ!お前ら!」
リックが気づいて声を張り上げる。




