まさかのケンカ勃発!?8
姿なき声と言えば。レティの背中がぞっとした。
「幽霊ーっ!」
「何バカなこと言ってるの!見なさい、あれを!」
ユーシュテの視線の先には、潰れた実から縦に伸びる姿。
黄色のそれは、肩までのストレートヘアでワンピースを身に着けた女性になった。
ドロドロとした蜜でできたような姿だ。
『女の子が足癖悪いなんていけないわ。躾にお仕置きしちゃう』
女の人の手がユーシュテに向けられ、五本の指から糸が出てユーシュテの全身に巻き付いた。
「ユースちゃん!」
「あ……、はっ!」
適度に肉付きのいい体に細い糸が絡み付いて、ギチギチと締め上げる。
レティが近くに転がってるユーシュテのナイフを取ろうと手を下に伸ばすが、当然のごとく届かない。
首は絞まっていないものの、体に食い込む糸にユーシュテが苦悶の表情を浮かべた。
「あ、うっ……!ああっ!やめ……っ」
「やめて!!ユースちゃんに意地悪しないで!」
『なんてセクシーな声っ!女の子の悲鳴ってゾクゾクしちゃうー』
元フルーツだった女性が口に手の甲を当てて笑った。
「んはっ……!ディノ……スっ」
壁に掛けていた剣を取り、リックが船室から走って出た。
通路を曲がってすぐにディノスと鉢合わせた。
「やっぱ、お前も何か気づいたか?」
「ああ。良くない気配を感じた」
リックの問いかけにディノスは頷いた。
二人の慌ただしい足音に気づき、船に残っていた船員が次々に顔を出してついてくる。
「お二人とも、何かあったんですか?」
「分からんが、甲板の方で何かを感じる」
ディノスが説明しながら走る。更に外の近くまで来たら、ドアが開いてジャンと会った。
「ジャン、レティ達は?」
「見つけてきたものを持って、甲板で待ってるはずです。固いから割ろうと思って……。怖い顔をして何かあったんで?船長」
リックが答える前に、甲板から悲鳴が聞こえた。
「リック様っ!助けてぇっ!」
「レティ!?」
リックとディノスに続いて、その場にいた全員が外に飛び出した。
「レティ!」
そこには見慣れぬ女性とたくさんの糸。
床にはフルーツの殻、広がる甘い匂いとそこらじゅうに飛び散った液体。
糸が腰に巻き付いて宙に浮かされるレティに、全身を締め上げられるユーシュテがいた。
「ユース!」
『誰?』
ディノスの声で、女性が視線を背後に向ける。
「あっ、ああっ……、あう!」
眉を寄せて歯を食い縛るユーシュテ。ディノスはジャケットから銃を取り出して構え、素早く留め金をおろした。
「今助ける」
『何するの!?きゃああっ』
ドンドンと連続して弾を放ち、女性が驚いて頭を手で庇う。
銃弾は糸を正確に貫き、ユーシュテからパラパラと落ちる。
「はぁ……っ。ディノス……」
恋人に気づいたユーシュテが安堵しながら、よろめく。ディノスが走ってユーシュテを抱き締めた。
「怖かったか?」
「ううん、大丈夫……」
ユーシュテがクスンと鼻を鳴らし、ディノスの首に手を回す。
それから、ディノスはレティの方にも銃を向けた。
「レティアーナ、動かないでくれ」
「は、はいっ」




