忌まれる美しき歌声の理由(わけ)2
「貴方は……」
「ドア、直ったな。マスター」
目立つ上着の人物が視界に入り、ジョアンがリックに気がついた。
「はい。置いてもらったルビーのついたブレスレットのお陰で。あの時破損した分を新調しても、余りすぎるくらいのお釣りが来ました。本当に頂いてしまったままで良かったんですか?」
「構わない。今日は聞きたいことがあって来た。時間はとれるか?」
「勿論です。さあ、中にどうぞ」
ジョアンは新しいドアの向こうに手を向けた。二人とも店内に入る。
リックは初めて来たときと同じように、カウンターの席に腰を落ち着けた。
「飲み物はいかが致しましょう?この間と同じもので?」
「いや……。アルコール以外で構わない」
「インスタントになりますが、コーヒーで良いですか?」
「ああ」
「畏まりました」
ドリップのインスタントをコーヒーカップに被せ、ジョアンはお湯を注ぐ。
暫くしてコーヒーが出切り、リックの前に湯気の立つ白いカップを置いた。
自分用に用意した分にも口をつけ、訊ねた。
「して、お聞きになりたいことと言うのは」
「レティのことだ。ここの島民はどうもレティのことをよく思ってないらしいな。歌も歌わせないと。それなのにマスター、あんたは彼女に良くしてる」
「あの子が話したんですね」
ジョアンはゆっくりと二度頷いた。
「良く分からないが、彼女から聞くには酷なようだ。だから、マスターに聞きに来た」
リックの目付きから、いたずらな興味本意ではないと分かった。
そこでジョアンはリックとの間に一つ間をあけてカウンターの席に座った。
ジョアン自体横に体が大きいため、隣り合わせにすると狭いのだ。
それに今は営業前でガラガラの店内だ。
「自分はレティの両親と友人でした。まあ、若い頃……それこそ今から二十数年前、レティの母親が今のレティくらいだったころ、恥ずかしながら自分はレティの母親に惚れちまってて」
ジョアンは懐かしむような目をしながら、頬を少し赤くした。
「ところが彼女はレティの父親に惚れてた。そっちが両想いってやつで、自分は告白するまでもなく玉砕しました。二人が結婚し、レティの父親の仕事で島を出ていき、自分も色んな仕事とかをなんやかんやしながら、二人とはちょっと疎遠になってたんです」
リックは相槌を打たないが、静かに話を聞いているようだった。代わりに時折、頷いている。
「ここからは自分がこの街にいなかったので聞いた話ですが、ある激しい雨の降った翌日だったそうです。島の海岸に壊れた船が流れ着いて……」




