忌まれる美しき歌声の理由(わけ)
――チュンチュン。
「……はぁ……」
机に伏せていたレティは、カーテンの合間から部屋へ細く差し込む光と鳥の声に気づき、顔を上げた。
ずっとため息をついた。それから。
「ん……どうしよう……」
『どうしよう』で一晩中埋め尽くした。答えがでなかった。
両親のいた土地に馳せる想い、誰の目も気にせずに自由に歌を歌える世界はとても恋しい。
同時にジョアンのことも胸を締め付けた。
彼に付いていきたいのに付いていけない。そんな気持ちだった。
そういう想いは彼が何とかしてくれると言った。それがほどけたら、答えは出るのだろうか?
緩慢な動きで立ち上がり、カーテンを開けたときにあることに気がついた。
「あ!」
外の風を受け、揺れるそれ。
(洗濯物を取り込んでなかったわ!)
リックの言葉に頭を占領されて、すっかり忘れていたのだ。
レティは慌てて玄関に向かう。サンダルに足を突っ込み、忘れない挨拶。
「お父さん、お母さん、おはようございます!」
そうして外に走った。
リックが二度目の酒場に向った時、丁度ドアの取り付けが終わったところだった。
「毎度おおきに、ジョアンの旦那。また気軽に声を掛けて下せぇ!」
「バカ言え。そんな直ぐには世話になんねぇよ」
業者と思わしき男に、ドアの外でガハハと陽気に笑ってジョアンが答えた。
「あれぇー?その言葉、二ヶ月前にもあっしは聞きましたぜぇ?旦那」
「うるせーよ」
ジョアンは太い腕で業者の背中を叩いた。
「ま、もしもだな。もしも万が一そんなことになったら宜しく頼むよ」
「へい、もちろん。任せてくだせぇ。じゃ、また」
業者を見送り、その姿が離れたところでリックはジョアンの方に歩みを進めた。




