風邪引き歌姫さん8
リックの両手がレティの耳の側に沈む。
「風邪はな、人に移したら治るって言われてる」
その言葉の直後に、ちゅっと音を立てて唇にキスをされた。
「俺が貰ってやろうか?」
「そ、そんなの……。いいですっ!」
レティは真っ赤になって頭を振った。
「遠慮するな。このくらいのもの貰ったくらいじゃ、俺は風邪引きゃしねーよ」
「ちょっともう、何言ってるんですか、リック様っ!あっ!」
文句と抵抗の言葉は呆気なくリックに吸いとられた。
視界がリックで埋め尽くされ、遊ぶように何度も唇に触れられる。
体に力が入ってぎゅっと唇を閉じるレティ。
舌先で唇に割り入って歯列をノックしても、拒まれてその先へは進めない。
リックは一度唇を離し、戸惑いの表情を見せるレティを見詰めた。
「レティ……」
慈しみを込めて、耳や髪、頬に頭を撫でる。
「レティ?」
名前を呼んだら体の力を抜いてくれて、唇が僅かに開いた。
マシュマロのようなそれを指でつつき、それからもう一度唇を重ねた。
「ん……」
舌を侵入させて、でも病気の体を驚かせて興奮させないように、ゆっくりゆっくりと中に入った。
柔らかいレティの舌にちょんちょんと触れてみたり、絡めたり吸ったり。
時折ピクリと体が動いたり、小さな甘い声が漏れたりした。
労りの気持ちが伝わるのか、目を閉じたレティの表情は安心しきったものだった。
名残惜しい気もするが、まだ負荷をかけるわけにもいかない。こじつけな理由からのわがままを受け入れてくれたレティに感謝して、早めに唇を離した。
レティは目を開けて、そんなリックに対してにこっと笑った。
「リック様、やっぱり大好きです」
「俺もレティを愛してる。さ、今日はおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
レティの布団を整えてやり、中で手を握った。
彼女の目がゆっくりと閉じられ、眠りの世界に落ちていくのを見守った。




