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風邪引き歌姫さん7

「どうしても選ばないといけませんか?」

「どうしてもだ」


手を伸ばしたところで、トレーごと届かないところへ動かされてしまうのはもう経験済み。


「レティ?」


ほら、とスプーンを動かされて、レティは仕方なく小さく口を開けた。


「おりこうさんだな」


大人なのにただ少し具合が悪いと言うだけで食べさせてもらうなんて、顔から火が出るくらいレティは恥ずかしかった。でも。

朝のことは記憶に朧気なのだが、船内で力尽きたレティを抱いて医務室に連れていってくれたのはリックで、診察から点滴の投与まで付き添ってくれたのもそうだ。

具合が悪化したら困るからとリックの部屋に連れてきて寝かせてくれたし、至れり尽くせりで逆らえないのも事実だった。

ここはどう考えてもレティが折れるしかない。

恥ずかしさを堪え、リックに食べさせてもらうレティだった。


リックの本音としては、甲斐甲斐しく看病したいと言う気持ちと、こうして弱ったレティに少し意地悪をして困らせて喜んでいるのと両方だった。


「美味しいか?」

「……はい、美味しいです」

「そうか。ジャンが早く良くなるように、ありったけの栄養込めたって言ってたからな。レティの言葉聞いたら喜ぶぞ」


次のスプーンの中身を冷ましながら、リックは言った。

それからまたスプーンをレティの口元に持っていく。


「やっぱり恥ずかしいです……」


素直に食べながら、レティが呟いた。それを聞いてリックは笑う。


「なら、風呂に行くときは忘れ物や落とし物をして、困って湯冷めしないようにしないとな」

「!」


風邪の原因まですっかりバレバレだった。


「もう……。リック様には全然敵いません……」


レティは布団ごと膝を抱え、少し唇を尖らせた。


「当たり前だ」


(……とは言っても、実際はそうでもなかったりするんだけどな。あの無意識の行動とか)


落ち着いて余裕のある答え方をしながら、心の中では違うことを考えるリックだった。







人生初の恥ずかしいご飯を終え、お茶と薬を飲み、歯を磨いてベッドに入ったら、リックが汗ばんだ顔や首を濡らしたタオルで拭ってくれた。


「リック様」

「ん?」


レティは手を伸ばし、ベッドの側に椅子を置いて座るリックの袖を掴んだ。


「今日みたいに一日中ずっとリック様といられるのなら、風邪も悪くないって思っちゃいます」


相変わらず素直な言葉を放つレティに、リックは表情を緩めた。


「俺はそれでも構わねーけど、そうしたら外には遊びにいけなくなるぞ?あと、歌も聞けなくなる」

「あ、そうですね……」


レティは納得して笑った。


「そうしたら、やっぱり早く治さないといけませんね」

「レティ……」


リックが体温を確かめるのに、手の甲をレティの額や頬に当てた。


「薬以外に風邪を治す方法、知ってるか?」


それを聞いて、藍色の瞳が驚いたように瞬きをした。



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