風邪引き歌姫さん5
敵の船長やクルーが中を好き勝手に破壊し、開けて回る。
「金目のものは残さず取り上げろ!」
「了解、ボス!」
船長は歩きながら、通路の角の向こうに見える何かに気づいた。
「何だ?ありゃあ……」
ドスドスと足音をさせて近づくと、段々それが細い足だということが分かる。
辿り着いたそこに、赤い顔をしたレティが倒れていた。眉を少し寄せて、浅く呼吸をしている。
船長はヒュッと口笛を鳴らした。
「こりゃあ、すげえ掘り出しもんだ。えれえ上玉の女だぜ」
そして、外で戦ったリックの表情が変わったわけを悟る。
「お前、あの男の女かぁ?」
ペチペチと頬を叩くが、レティは返事をしない。
「具合悪そうな顔してんなぁ」
レティに跨がって頬を撫で付ければ、熱が伝わってきた。
当然ながらここで労りを見せるほど、優しくはない。
「ん……んぅっ……」
レティは小さな呻き声を漏らした。
眉を寄せて上気した表情に、赤く染められ熱を持った肌、浅い呼吸。
息苦しいのか唇が少し開いて小さな歯や舌が見えることも、船長の喉を鳴らすのに十分だった。
「おおー、可哀想に。暑いか?俺が服を脱がせてやろう」
レティの襟元に手を掛け、ボタンを無視して一気に割り開いた。
ブチブチと音がして乳白色のボタンが床に弾け飛んだ。
頭を掴み、細い首筋に貪るように食いついた。
「はぁっ……、はっ……」
耳元を掠める熱い吐息。欲にまみれた男の全身が粟立つ。
スカートの中に手を潜り込ませ、柔らかい足を掴み、キャミソールを捲り上げた。
「何だ。胸は小せぇな」
淡い膨らみを見詰め、不服そうに呟く。その時レティの瞼が震えた。
僅かな藍色が、範囲の狭い視界を捉えようとする。
(誰……?)
自分を見下ろす誰か。何重にも輪郭が重なってすぐにはわからない。
その時にあるものが目に入った。
レティの中で一番印象に残る色。
レティを襲っている相手は赤いシャツを来ていたため、レティはそれがリックだと勘違いした。
「……ク……ま?」
聞き取れるか取れないかくらいの小さな声でリックを呼び、ふにゃりと笑った。無防備な笑顔。
不覚にも船長は手を止め、その顔を見て真っ赤になった。
(何て顔をしやがるんだ、この女……)
目の前の人物がリックだと思ったレティは、ゆっくり手をあげて細い指を伸ばす。
船長の顔が狂気に変わる。
細い手首を掴み、床に縛り付けた。
口の端を上げて貪り付こうとしたとき、後ろから髪を掴まれた。
ものすごい力で引っ張られ、壁に頭をぶつけられた。手加減のない力で顔が壁にめり込む。
「んぐあぁっ……」
「何やってんだ、てめぇは……」
怒りの黒いオーラを纏い、修羅のような顔をしたリックが立っていた。
壁から船長の顔を引き抜き、横腹に拳を入れて通路の向こうまで殴り飛ばした。
壁を破壊して巨体が通路にずり落ちる。
船内にはリックのクルーたちの声も入ってきて、敵と戦闘になって騒がしくなる。
「ちき……しょ……。その女を頂くつもりが……」
「黙れ。レティに汚い手で触って、生きて帰れると思うな」
リックはゆっくりと船長の元に歩んでいき、その目の前で足を止める。
巨体の胸を掴みあげるように爪を立てた。




