風邪引き歌姫さん4
ガンガンという何かを叩くそれが収まったと思ったら、船内に声が響き渡る。
『敵船発見!全クルー戦闘準備!』
レティがリックの船に乗って、初めての経験だった。
部屋のドアが荒々しく開いて、船員が甲板の方に駆けていく足音がバタバタとする。
外で大砲でも側に落ちたのか、船が激しく揺れる。
「あ……」
慣れてないレティは足をふらつかせた。思わず側の壁に寄り添うが、急に景色が二重になって床が波打った。
「あれ?」
変に歪んだ景色はすぐに元に戻る。
戦闘のできない自分は外に出られないことくらい、分かっていた。
部屋に戻るのが得策だと思い、壁伝いに手を着いて歩いた。
けれど、足元がおぼつかない。
少し向こうに自分の部屋への通路が見えたとき、船が再度揺れてレティは壁から手を滑らせ床に転がった。
立たないとと思うのに、体に力が入らずに上手くいかない。むしろ体が重い。
体の調子がおかしいと漸く気づいた。
外ではリックやディノスの指示の元、近くに寄った敵船と戦闘が繰り広げられていた。
力を持った生物との契約者はいなかったが、大砲や持ち込んだ武器はかなり強力ですぐには片付きそうになかった。
その上幹部らしき数人がディノスを取り囲み、船長は乗り込んできてリックと組み合いになっていた。
先日戦ったウィルには到底及ばないが、武器が刃の深いノコギリのようなもので、これを振り回されると船員に多数被害が出るため、リックは抑え込みに集中がかかっていた。
弾いては離れ、組み合って弾いてが続く。
そんな時大砲が船へ飛んできて、ズガンと重い音を立てて船室へ繋がるドアを破壊した。
「リック!」
「船長っ!」
船員の声で何が起こったかを目にした。
「金目のものを探せー!」
敵のクルーが何人か中に入ってしまう。
(まずい!中にレティが……!)
リックの些細な表情の変化に気づいた敵の船長が笑う。
「おや?中に何か、奪られちゃまずいものでもあんのか?」
苦々しく舌打ちをし、リックは相手の刃を凪ぎ払うと同時に腹を蹴り飛ばした。
洗濯スペースで戦っていたため、巨体が下に落ちた。
が、刃を壁に立てて衝撃の抵抗を作ったためにあまりダメージはなかったらしい。
下に着いて刃を引き抜き、船長は船室に向かって走っていく。
「させるか!」
リックは上から甲板に飛んだが、多数の敵クルーに取り囲まれてしまった。
その隙に船長は中に入り込んでしまう。
(レティ!)




