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風邪引き歌姫さん2

(こんなことユースちゃんに話したら……)


『そんなのあんたのちっぱいより小さなことよ!ノーパンで帰れば良いじゃないの。誰も気づきゃしないわよ』


(って言うんだろうなぁ)


はぁ……とため息をついたとき、風呂場のドアがドンドンと叩かれた。


「!」


(どうしよう!誰か来ちゃった!?)


ドアには使用中の札を掛けたものの、もし誰かが待っているならすぐに出られないこの状況はかなりまずい。と、思ったら。


「レティー」


リックの声がした。そして、磨りガラスの窓にピンク色をした三角のものが見えた。


「きゃーっ!」


(よりによってよりによって!リック様に見られるなんて!)


そのまま取ろうとして、ドアを開けることも忘れて走ってしまった。その結果。

ガンッ!顔面をガラスに強打し、ひっくり返った。

バタっ……ゴン!最後に頭の後ろを床にぶつけ、痛々しい音がした。


「レティ!?」


窓の向こうから見えたぼんやりとしたシルエットの動きに慌て、どういう事故が起こったかを何となく悟ったリックはドアを開けた。

案の定、レティが額を赤くして目を回し、仰向けに倒れている。


「しっかりしろ!」

「あう……」


持っていた下着を床に置いてレティの上半身を引っ張り起こしたが、情けない声を出しただけで全然リックを見てくれない。

それもそのはず。頭の前後に受けた衝撃で、グラグラしていたのだ。

レティはタオル一枚と言うあられもない格好だったが、だからどうだと今はいっている場合ではない。

仕方がないのでバスタオルを二枚床に敷き、レティを寝かせて意識がはっきりするまで待った。

鈍い痛みが消える頃、ようやく景色もまともに見られるようになってレティは目を開けた。


「リック様……」

「大丈夫か?」

「頭が痛いです」

「打ったんだから当然だ。とりあえず着替えな……。医務室で氷を貰おう」


すっかり冷たくなってしまった前髪を後ろに流し、額を触れるか触れないかの微妙なところで撫でてからリックは出て行った。

床に手を着いて起き上がったレティは、自分の格好を見て唖然とした。

いったいどれくらいの時間、彼の前にこのみっともない姿を晒していたのか。


(パンツも見られちゃうし、さっきから踏んだり蹴ったり……)


しょぼんとしてレティは着替えたのだった。

一方リックはドアの向こうで壁に寄りかかり、頭を押さえていた。


「はぁー、……もう」


先日の飲み会と言い今回と言い。

全て悪気のない事故だとしても、艶やかできめ細やかな肌や目前に迫る体の線は、あまりにも刺激的だ。

暫く彼女の悩ましい姿が頭にこびりついて離れないだろうことに、リックは頭を抱えるしかなかった。


「天使なんだか悪魔なんだか、サッパリ分からん……」



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